連載「その常識、研究では?」全10回の第5回です。

「最後の1回が効く」「追い込まなければ変わらない」。筋力トレーニングの現場で、これほど広く共有されている言葉も少ないと思います。もう1回も上がらないところまでやる——専門的には「反復限界(momentary muscular failure)まで行う」と言います。

第4回では、軽い重量で筋肥大を狙う場合に限界まで反復することが条件になる、という結果を見ました。ではその条件は、重い重量でも同じように必要なのでしょうか。そして限界まで行くことに、見合わない代償はないのでしょうか。

結論を先に書きます。総挙上量をそろえて比べると、限界まで追い込んでも、余力を残しても、筋力と筋肥大の結果はほとんど変わらない。むしろ筋力については、追い込まないほうがわずかに良い結果が報告されている——これが現時点での要約です。ただし「限界までの距離」を連続量として見ると、筋肥大だけは違う挙動を示します。そこが今回の要点になります。

その常識研究では 第5回 限界まで追い込む必要はあるか反復限界という考え方|オンザショア立川店 立川駅徒歩1分年中無休の溶岩ホットヨガスタジオ

出自——サイズの原理と「最後の1回」

この考え方の理論的な支えは、運動単位が動員される順序にあります。力を出すとき、まず小さく疲れにくい運動単位が動員され、必要な力が増すにつれて大きく強い運動単位が加わる(サイズの原理)。疲労が進めば、軽い負荷でも大きな運動単位まで動員されるはずだ。したがって限界まで行けば、すべての運動単位に刺激が届く——という筋道です。

説明としては一貫しています。しかし「すべての運動単位が動員されること」と「筋肉が最もよく成長すること」は同じではありません。動員は瞬間の出来事であり、成長は数週間から数か月の積み重ねです。両者をつなぐには、長期の介入試験が必要になります。

最初の大きな比較試験

Izquierdo M, Ibañez J, González-Badillo JJ, et al. Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains. Journal of Applied Physiology. 2006;100(5):1647-1656.

身体活動のある男性42名を、限界まで行う群(14名)、行わない群(15名)、対照群(13名)に割り付け、11週間の訓練のあと、両群同一の5週の仕上げ期を設けた試験です。結果、ベンチプレスの最大挙上重量は両群とも23%、スクワットは22%と23%の向上で、群間差はほとんどありませんでした。上肢のパワーは27%と28%、下肢は26%と29%。限界まで追い込んだ側が明確に優れた項目はありませんでした。

差が出たのは別の側面です。限界まで行った群のほうが、ベンチプレスで可能な反復回数の増加が大きくなりました。一方、仕上げ期のあとの下肢パワーの伸びは、追い込まなかった群のほうが大きくなっています。安静時のホルモンにも違いが出ており、限界まで行った群ではIGF-1が低下してIGFBP-3が上昇し、追い込まなかった群ではコルチゾールが低下してテストステロンが上昇しました。

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統合してみると

Davies T, Orr R, Halaki M, Hackett D. Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. 2016;46(4):487-502.

8件の研究を統合したこの解析では、限界まで行わない側が0.6〜1.3%だけ大きな筋力向上を示し、小さいながら有意な効果量が得られました(0.34、p=0.02)。ただし総挙上量をそろえた4件だけを解析すると、有意差は消えました。著者らは、統計的に有意な差が出たとはいえ、その改善幅は意味のある大きさとは言いにくいと述べています。

Grgic J, Schoenfeld BJ, Orazem J, Sabol F. Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sport and Health Science. 2022;11(2):202-211.

Vieira AF, Umpierre D, Teodoro JL, et al. Effects of Resistance Training Performed to Failure or Not to Failure on Muscle Strength, Hypertrophy, and Power Output: A Systematic Review With Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research. 2021;35(4):1165-1175.

統合研究筋力筋肥大量をそろえない場合
Grgic ら(15件)差なし(効果量-0.09、95%CI -0.22〜0.05)差なし(0.22、95%CI -0.11〜0.55)筋力は追い込まない側が有利(-0.32、95%CI -0.57〜-0.07)
Vieira ら(13件)差なし(標準化平均差-0.08、p=0.642)追い込む側が有利(0.75、p=0.005)。ただし量をそろえると差なし筋力-0.34(p=0.048)、パワー-0.61(p=0.025)とも追い込まない側が有利

二つの統合が同じ構図を描いています。総挙上量をそろえれば差は消える。そろえない場合は、追い込まない側がやや有利になる。後者はやや意外に見えますが、理由は単純です。限界まで行うと1回のセッションで扱える総量が減り、次のセッションにも疲労が持ち越されるためです。

ただしGrgic らの解析では、訓練経験のある人に限った小分類で、筋肥大について限界まで行う側が有意に優れるという結果も出ています(効果量0.15、95%CI 0.03〜0.26)。値は小さく、対象となった研究も限られますが、筋肥大と筋力で挙動が違う可能性を示唆します。

「限界までの距離」を連続量として見る

ここで研究の枠組みが変わります。「限界まで行ったか、行かなかったか」という二分法ではなく、あと何回できたか(repetitions in reserve、以下RIR)という連続量で見る方法です。

Refalo MC, Helms ER, Trexler ET, Hamilton DL, Fyfe JJ. Influence of Resistance Training Proximity-to-Failure on Skeletal Muscle Hypertrophy: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine. 2023;53(3):649-665.

15件の研究を統合したこの解析では、何らかの定義による「限界」まで行った条件が、筋肥大についてごくわずかに有利でした(効果量0.19、95%CI 0.00〜0.37、p=0.045)。ただし厳密な意味での反復限界に限ると差は消え(0.12、95%CI -0.13〜0.37、p=0.343)、挙上速度の低下率で区切った比較でも差はありませんでした(0.08、95%CI -0.16〜0.32、p=0.529)。総挙上量も相対的な負荷も、この関係を変えませんでした。

Robinson ZP, Pelland JC, Remmert JF, et al. Exploring the Dose-Response Relationship Between Estimated Resistance Training Proximity to Failure, Strength Gain, and Muscle Hypertrophy: A Series of Meta-Regressions. Sports Medicine. 2024;54(9):2209-2231.

この研究は、既存の試験から推定したRIRを連続量として扱い、メタ回帰を行いました。結果は筋力と筋肥大で分かれます。筋力については、どの最適モデルでもRIRの傾きの信頼区間が0をまたぎ、限界までの距離と筋力向上のあいだに関係が見られませんでした。一方、筋肥大についてはRIRの傾きが負で信頼区間が0を含まず、限界に近いほど筋肥大が大きくなる関係が示されました。

ただし著者らは強い留保を付けています。モデル全体の当てはまりは中程度にとどまり、RIRは各研究の記述からの推定値であるため、実際の関係は依然として不明確である、と。探索的な解析であり、この目的で設計された大規模な試験が必要だとも書かれています。「限界に近いほど筋肥大に有利」は、確立した法則ではなく作業仮説として扱うのが妥当です。

この仮説を検証した試験も出ています。ただしいずれも小規模です。Refalo らは訓練経験のある18名(男性12名・女性6名)の左右の脚に、限界まで行う条件と余力を1〜2回残す条件を割り当て、週2回、8週間のレッグプレスとレッグエクステンションを行いました。大腿四頭筋の厚みの増加は、限界まで行った側で0.181cm、余力を残した側で0.182cmと、ほぼ同じでした。部位別では大腿直筋が余力側(-0.036cm)、外側広筋が限界側(0.033cm)とわずかに傾き、方向が揃いません。一方、挙上速度の低下と反復回数の落ち込みは一貫して限界まで行った側で大きくなりました。

もう少し大きな試験として、Hermann らは訓練経験のある男女42名を対象に、9種目を1セットずつ、週2回、8週間行わせ、全種目を限界まで行う群と、余力を2回残す群を比べました。筋肥大の複数の指標は限界まで行った群にわずかに傾いたものの、条件間の差は概して小さく、筋力と局所的な筋持久力は両群で同程度でした。垂直跳びも著者らは統計的にどちらの仮説も明確には支持されないと述べています。

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追い込むことの代償

効果の議論とは別に、限界まで行うことには支払うものがあります。

Refalo らは2022年の系統的整理で、反復限界の定義そのものが研究間で統一されておらず、「限界まで行っていない」条件がどれくらいの余力を残していたかも不明確な場合が多いと指摘しました。そのうえで、限界まで行うことは筋肥大を最大化するうえで優れているとは言えない一方、神経筋疲労・筋損傷・セット後の主観的な不快感を増大させ、その結果として回復と次の成績、さらに長期の継続率に悪影響を及ぼしうると整理しています。

実際の試験でも同じことが起きています。Santanielo らは訓練者14名の左右の脚に、限界まで行う条件と行わない条件を割り当て、週2回、10週間の訓練を行いました。外側広筋の横断面積の増加は13.5%と18.1%、羽状角は13.7%と14.4%、レッグプレスの最大挙上重量は22.3%と26.7%で、いずれも両条件で同程度に増加しました(筋電図の振幅にも差なし)。

一方、Martorelli らは活動的な若い女性89名を対象に、10週間の肘屈曲トレーニングを行いました。筋力と筋持久力はどの群も同程度に伸びましたが、毎秒180度での最大トルクは、限界まで行わなかった2群でのみ有意に増加し(13.7%と4.1%)、限界まで行った群では変化がありませんでした(-0.5%)。追い込んだ群だけが、速い動作での力発揮を伸ばせなかったということです。量の設定については筋肥大に必要な量を、セット間の休息についてはインターバルと動作速度を扱った記事があります。

現在どこまで言えるか

  1. 総挙上量をそろえると、限界まで行っても行わなくても筋力と筋肥大の結果はほぼ同じである。
  2. 量をそろえない場合は、追い込まない側がやや有利になる。疲労の持ち越しで総量が減るためと考えられる。
  3. 「限界までの距離」を連続量で見ると、筋力は距離に依存せず、筋肥大だけが限界に近いほど大きくなる関係が示唆される。ただし推定値に基づく探索的な解析である。
  4. 限界まで行うことは、神経筋疲労・筋損傷・主観的な不快感を増やす。長期の継続を損なう可能性が指摘されている。
  5. 速い動作での力発揮については、限界まで追い込んだ群で伸びなかったという報告がある。

限界も明記します。ここで挙げた試験はいずれも若年成人が対象で、高齢者や競技者のデータは乏しく、期間も10〜16週間程度です。「限界まで行っていない」条件の余力がどれくらいだったかは研究によってばらばらで、統合の際の異質性の大きな原因になっています。また、自分であと何回できるかを見積もる精度には個人差があり、種目によっても違います。実際、上で挙げた42名の試験では、余力の見積もりの正確さはスクワットよりベンチプレスで高く、介入を通じて改善しました。「余力を2回残す」という指示が、参加者ごとに違う実態を指していた可能性があるということです。

出版バイアスについても一言。「追い込まなくても同じ」という結論は直感に反するぶん発表されやすく、逆に「やはり追い込んだほうが良かった」という予想通りの結果は埋もれやすい可能性があります。ただしこの領域では、量を統制しないと追い込まない側が有利という、さらに直感に反する結果も繰り返し出ており、バイアスの向きを単純には読めません。標本数も問題で、ここで挙げた個別試験は14名から42名の規模です。小さな差を検出するには、いずれも力不足です。

実務的な読み替えはこうなります。毎セットを限界まで行う必要はありません。余力を1〜3回残す設定でも、量を確保していれば結果はほとんど変わらず、疲労は明らかに軽くなります。追い込むなら種目の最後のセットに限る、といった使い分けが、証拠とも整合します。心疾患や高血圧のある方は、いきり立つような追い込みは避け、運動の内容を変える前に医療機関で相談してください。

次回予告

第6回は「有酸素運動は筋肉を減らすのか——干渉効果」を扱います。筋力トレーニングと持久性トレーニングを同時に行うと、筋肥大や筋力の伸びが妨げられるという説が、どこまで確かめられているのかを見ていきます。

この連載の全10回

  1. 第1回|「超回復」は本当にあるのか
  2. 第2回|筋肉痛は効いた証拠か——遅発性筋痛と筋肥大
  3. 第3回|プロテインは運動後30分以内か
  4. 第4回|重い重量でなければ筋肥大しないのか
  5. 第5回|限界まで追い込む必要はあるか(この記事)
  6. 第6回|有酸素運動は筋肉を減らすのか——干渉効果
  7. 第7回|フルレンジでなければ効かないのか——可動域と部分反復
  8. 第8回|マシンとフリーウエイト、どちらが優れているのか
  9. 第9回|サプリメントは必要か——証拠水準を並べる
  10. 第10回|「効かせる」とは何か——意識の向け方と総括

出典

  1. Izquierdo M, Ibañez J, González-Badillo JJ, et al. Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains. Journal of Applied Physiology. 2006;100(5):1647-1656.
  2. Davies T, Orr R, Halaki M, Hackett D. Effect of Training Leading to Repetition Failure on Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. 2016;46(4):487-502.
  3. Martorelli S, Cadore EL, Izquierdo M, et al. Strength Training with Repetitions to Failure does not Provide Additional Strength and Muscle Hypertrophy Gains in Young Women. European Journal of Translational Myology. 2017;27(2):6339.
  4. Santanielo N, Nóbrega SR, Scarpelli MC, et al. Effect of resistance training to muscle failure vs non-failure on strength, hypertrophy and muscle architecture in trained individuals. Biology of Sport. 2020;37(4):333-341.
  5. Vieira AF, Umpierre D, Teodoro JL, et al. Effects of Resistance Training Performed to Failure or Not to Failure on Muscle Strength, Hypertrophy, and Power Output: A Systematic Review With Meta-Analysis. Journal of Strength and Conditioning Research. 2021;35(4):1165-1175.
  6. Refalo MC, Helms ER, Hamilton DL, Fyfe JJ. Towards an improved understanding of proximity-to-failure in resistance training and its influence on skeletal muscle hypertrophy, neuromuscular fatigue, muscle damage, and perceived discomfort: A scoping review. Journal of Sports Sciences. 2022;40(12):1369-1391.
  7. Grgic J, Schoenfeld BJ, Orazem J, Sabol F. Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. Journal of Sport and Health Science. 2022;11(2):202-211.
  8. Refalo MC, Helms ER, Trexler ET, Hamilton DL, Fyfe JJ. Influence of Resistance Training Proximity-to-Failure on Skeletal Muscle Hypertrophy: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine. 2023;53(3):649-665.
  9. Refalo MC, Helms ER, Robinson ZP, Hamilton DL, Fyfe JJ. Similar muscle hypertrophy following eight weeks of resistance training to momentary muscular failure or with repetitions-in-reserve in resistance-trained individuals. Journal of Sports Sciences. 2024;42(1):85-101.
  10. Hermann T, Mohan AE, Enes A, et al. Without Fail: Muscular Adaptations in Single-Set Resistance Training Performed to Failure or with Repetitions-in-Reserve. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2025;57(9):2021-2031.
  11. Robinson ZP, Pelland JC, Remmert JF, et al. Exploring the Dose-Response Relationship Between Estimated Resistance Training Proximity to Failure, Strength Gain, and Muscle Hypertrophy: A Series of Meta-Regressions. Sports Medicine. 2024;54(9):2209-2231.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。高血圧・心疾患・脳動脈瘤・網膜の疾患を指摘されている方、めまいや強い頭痛を伴う方は、限界近くまでの反復や息をこらえる動作を避け、医療機関にご相談ください。

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