ヨガが高齢者の認知機能を保つ、という研究は数多く発表されています。記憶、実行機能、注意——いずれにも効果があったと報告されています。
ところが、その根拠となる試験の数を数えると、意外なほど少なくなります。健康な60歳以上を対象とした無作為化比較試験に限定したレビューでは、1,466件から選ばれた適格研究は6件(うち独立した試験は5件)でした。そして著者らは「すべての研究で全体的なバイアスのリスクが高かった」と評価しています。
効果量はいくつか、確実性はどれだけか。順に見ていきます。

ヨガに絞った統合
Gothe NP, McAuley E. Yoga and Cognition: A Meta-Analysis of Chronic and Acute Effects. Psychosomatic Medicine. 2015;77(7):784–797. DOI: 10.1097/PSY.0000000000000218
客観的な認知の測定を用い、効果量を推定できるだけのデータを報告した研究を集めたものです。15の無作為化比較試験と7つの急性曝露研究が含まれました。
| 条件 | 領域 | 効果量(Hedges’ g) | p値 |
|---|---|---|---|
| 継続的な実践(RCT) | 全体 | 0.33(95%CI 0.18〜0.48) | < .001 |
| 注意と処理速度 | 0.29 | < .001 | |
| 実行機能 | 0.27 | .001 | |
| 記憶 | 0.18 | .051 | |
| 1回の実践(急性) | 全体 | 0.56(0.33〜0.78) | < .001 |
| 記憶 | 0.78 | < .001 | |
| 注意と処理速度 | 0.49 | < .001 | |
| 実行機能 | 0.39 | .003 |
興味深い構造が2つあります。
第一に、継続的な実践における記憶の効果は p = .051 で、有意水準のすぐ外にあります。効果量も 0.18 と小さい水準です。
第二に、1回だけ実践した直後の効果(g = 0.56)のほうが、継続的な実践の効果(0.33)より大きいという逆転が起きています。とくに記憶では 0.78 対 0.18 と、4倍以上の差です。
この逆転をどう読むかは難しいところです。急性研究は対照条件との比較が単純で、覚醒度や気分の一時的な変化を拾いやすい設計になっています。一方、長期の変化を捉えるには別の困難があります。少なくとも「続けるほど累積して効く」という描像は、このデータからは支持されません。
著者らの結論は「ヨガの実践は認知機能の中程度の改善と関連していると思われる」としつつ、「標本サイズ、対象集団の異質性、ヨガ介入の用量のばらつき、無数の認知検査によって制限されている」と明記しています。
高齢者に絞ると
Bhattacharyya KK, Andel R, Small BJ. Effects of yoga-related mind-body therapies on cognitive function in older adults: A systematic review with meta-analysis. Archives of Gerontology and Geriatrics. 2021;93:104319. DOI: 10.1016/j.archger.2020.104319
7つのデータベースを検索し、12研究・912名(女性73.9%、認知障害あり239名・なし673名)が選ばれました。11件が無作為化比較試験で、1件はバイアスのリスクが高いためメタ分析から除外されています。
| 領域 | 効果量(Cohen’s d) |
|---|---|
| 実行機能 | 0.40 |
| 記憶 | 0.38 |
| 注意と処理速度 | 0.33 |
有害事象は報告されませんでした。
Gothe らの統合(記憶 0.18)と比べると、記憶の効果量が 0.38 と倍になっています。対象を高齢者に絞ったこと、含まれる研究が異なることが影響していると考えられます。
健康な高齢者に限定すると、根拠は薄くなる
ここからが重要です。上記の統合には、認知障害のある人を対象とした研究が含まれています。すでに認知機能が低下している人での改善と、健康な人での予防は、別の問いです。
Hoy S, Östh J, Pascoe M, Kandola A, Hallgren M. Effects of yoga-based interventions on cognitive functioning in healthy older adults: a systematic review of randomized controlled trials. Complementary Therapies in Medicine. 2021;58:102690. DOI: 10.1016/j.ctim.2021.102690
健康な60歳以上を対象とした無作為化比較試験に限定したレビューです。2020年6月までに5つのデータベースを検索し、1,466件から6研究(独立した試験は5件)が含まれました。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 有意な正の効果を報告した研究 | 6件中4件(総体的な記憶機能と実行機能を含む) |
| 介入の特徴と評価方法 | 研究間で異なる |
| バイアスのリスク | すべての研究で全体的に高い |
著者らの結論は「適切な検出力を持ち、頑健な研究デザインと長期の追跡を備えた無作為化比較試験が必要である」というものでした。
別のレビューでも、同じ状況が確認されています。健康な60歳以上を対象とした無作為化比較試験を探したところ、503件のうち適格だったのは5件のみ(計461名、男性128名・女性333名)でした。
| 結果 | 研究数 | 参加者数 |
|---|---|---|
| 対照群より有意に改善 | 3件 | 293名 |
| いずれの群にも有意な改善なし | 2件 | 168名 |
| 低下を報告した研究 | 0件 | — |
著者らは「研究はヨガの種類、介入期間、認知機能評価の種類が異なっており、結果は決定的でない(inconclusive)」と結論しています(Eilat-Adar ら, 2022, Alternative Therapies in Health and Medicine)。
13の無作為化比較試験を検討した別のレビューも、「方法論的な限界と研究数の少なさが、高齢者の認知機能に対するヨガ介入の潜在的な便益を確認することを妨げている」としています(Chobe ら, 2020, Complementary Therapies in Medicine)。
3つの独立したレビューが、いずれも同じ判断に至っています。効果の方向は一貫して肯定的だが、確認するには研究が足りない。

最も引用される試験
この領域で、方法論的に最も整っている試験を見ておきます。
Gothe NP, Kramer AF, McAuley E. The effects of an 8-week Hatha yoga intervention on executive function in older adults. The Journals of Gerontology Series A. 2014;69(9):1109–1116. DOI: 10.1093/gerona/glu095
地域在住の高齢者118名(平均62.0歳)を、8週間のハタヨガ介入とストレッチ・筋力強化の対照群に無作為に割り付けたものです。両群とも週3回・1時間のクラスに参加しました。
ここで重要なのは、対照群が「何もしない」ではなく「別の運動をする」群だったことです。運動をすること自体の効果を差し引いた比較になっています。
| 課題 | 結果 | 効果量(partial η²) |
|---|---|---|
| 課題切り替え(混合・反復試行)の反応時間 | ヨガ群で有意に短い | 0.04(p < .05) |
| 単一試行の正確性 | ヨガ群で高い | 0.05(p < .05) |
| n-back 課題の2-back 条件 | ヨガ群で高い | 0.08(p < .001) |
| ランニングスパン課題の部分再生 | ヨガ群で高い | 0.06(p < .01) |
partial η² の 0.04〜0.08 は、一般的な目安では小〜中程度にあたります。著者ら自身が「機序は今後検討される必要があるが、これらの結果は、ヨガが実行機能に及ぼす効果を徹底的に検討するため、より大規模で体系的な試験を要求する」と述べています。
脱落率の差という問題
Grzenda A, et al. Cognitive and immunological effects of yoga compared to memory training in older women at risk for Alzheimer’s disease. Translational Psychiatry. 2024;14:96. DOI: 10.1038/s41398-024-02807-0
脳血管リスク因子と主観的認知低下のある高齢女性を対象に、クンダリーニヨガ訓練(KY)と記憶増強訓練(MET)を比較した無作為化比較試験です(NCT03503669)。79名が割り付けられ(KY 40名、MET 39名)、24週間の追跡を完了したのは63名でした。
完了率:KY 65% 対 MET 95%(χ²(1) = 10.9、p < 0.001)
この差は無視できません。ヨガ群では3分の1が脱落した一方、記憶訓練群ではほぼ全員が完了しました。脱落した人と残った人の性質が違えば、残った人での比較は歪みます。
そして24週後の結果です。KY は MET と比較して、主観的な認知障害の指標で有意かつ大きな効果量の改善をもたらしました。転写レベルでは、インターフェロンγを含む加齢関連シグネチャーの変化が認められ、加齢マーカーであるケモカイン eotaxin-1 は MET 群で上昇した一方 KY 群では上昇しませんでした。
ここで注意すべきは「主観的な」認知障害の指標だという点です。自分でどう感じるかと、検査で測った成績は別のものです。この区別は、次の所見とも関係します。
心身系運動としてまとめた大規模な統合
Suk JW, et al. A Meta-Analysis of Studies of the Effect of Mind Body Exercise on Various Domains of Cognitive Function in Older People With or Without Mild Cognitive Impairment. Journal of Evidence-Based Integrative Medicine. 2025;30. DOI: 10.1177/2515690X251363709
ヨガ、太極拳、気功、瞑想を含む心身系運動について、2024年8月までの8つのデータベースを検索し、45研究・4,602名を統合したものです。
| 認知領域 | 効果量(Hedges’ g) | 評価 |
|---|---|---|
| 視空間構成 | 0.46 | 中程度 |
| 処理速度 | 0.26 | 小 |
| 言語性記憶 | 0.24 | 小 |
| 作業記憶 | 0.15 | 小 |
| 実行機能 | 0.10 | 小 |
| 注意 | 0.08(95%CI −0.07〜0.23) | 改善なし |
この表は、先ほどまでの統合と順位が違います。Gothe らでは注意と処理速度が最も大きく(0.29)、実行機能が次(0.27)でした。Bhattacharyya らでは実行機能が最大(0.40)でした。ところがここでは実行機能が 0.10、注意は有意ですらありません。
メタ回帰からは、軽度認知障害のある人のほうが健康な人より、視空間構成と実行機能で改善が大きいことが示されました。また介入の種類による差もあり、ヨガと太極拳は瞑想より、視空間構成と言語性記憶で強い効果を示しています。
領域ごとの効果の大きさが統合によって入れ替わるのは、含まれる研究と用いられた検査が違うためです。「ヨガは実行機能に効く」といった主張は、どの統合を見るかで支持されたりされなかったりします。

運動の種類を比べると
Han H, et al. Optimal exercise interventions for enhancing cognitive function in older adults: a network meta-analysis. Frontiers in Aging Neuroscience. 2025;17:1510773. DOI: 10.3389/fnagi.2025.1510773
58試験・4,349名の健康な高齢者を対象に、5つの運動様式を比較したネットワークメタ分析です。
| 認知領域 | 最も効果的だった様式 | 効果量 |
|---|---|---|
| 全般的認知機能 | レジスタンストレーニング | SMD 0.55 |
| 抑制制御 | レジスタンストレーニング | SMD 0.31(SUCRA 82.1%) |
| 実行機能(課題切り替え) | 心身系運動 | SMD −0.58(SUCRA 85.1%) |
| 作業記憶 | 心身系運動 | SMD 2.45 |
| 記憶機能 | 有酸素運動 | SMD 0.42 |
領域によって最適な様式が違う、という結果です。心身系運動は実行機能、とくに課題切り替えと作業記憶で最も高く評価されました。これは Gothe ら 2014 の試験(課題切り替えと n-back でヨガが優位)とも整合します。
ただし作業記憶の SMD 2.45 という値は、他の推定値と桁が違います。この種の極端な値は、少数の研究に基づく場合に生じやすく、そのまま受け取るべきではありません。
また最大の便益は65〜75歳の参加者と、アジアで実施された研究で観察されました。地域による差は、研究の質や実施環境の違いを反映している可能性があります。
運動全般と比べると
Singh B, et al. Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2025;59(12):866–876. DOI: 10.1136/bjsports-2024-108589
133の系統的レビュー(2,724のRCT・258,279名)を統合したアンブレラレビューです。
| アウトカム | 効果量(SMD) |
|---|---|
| 全般的認知機能 | 0.42 |
| 記憶 | 0.26 |
| 実行機能 | 0.24 |
この数字と、ヨガに絞った統合(全体 0.33、Bhattacharyya らで 0.33〜0.40)を比べると、ほぼ同じ範囲に収まります。つまり、ヨガが運動一般より優れているという証拠は、この比較からは出てきません。
同レビューは「効果は一般に低〜中強度の介入でより大きかった」「短期の介入(1〜3か月)とエクサゲーム(身体運動を要するビデオゲーム)が、全般的認知機能と記憶に最も大きい効果を持った」とも報告しています。
いま言えること
- ヨガに絞った統合(15 RCT)では、認知全体 g = 0.33。注意と処理速度 0.29、実行機能 0.27、記憶 0.18(p = .051)
- 1回だけの実践の効果(g = 0.56)のほうが、継続的な実践(0.33)より大きい。とくに記憶で 0.78 対 0.18
- 高齢者12研究912名の統合では、実行機能 0.40、記憶 0.38、注意と処理速度 0.33。有害事象の報告なし
- 健康な60歳以上に限定すると、適格な無作為化比較試験は5〜6件のみ。あるレビューは「すべての研究でバイアスのリスクが高い」、別のレビューは「結果は決定的でない」と評価
- 5研究461名のうち、3研究(293名)で有意な改善、2研究(168名)で有意差なし。低下を報告した研究はゼロ
- 最も方法論の整った試験(118名、8週間)では、対照群が「別の運動」だった。課題切り替えと作業記憶でヨガ群が優位(partial η² 0.04〜0.08)
- 45研究4,602名の心身系運動の統合では、実行機能 0.10、注意 0.08(有意でない)。領域ごとの順位が他の統合と入れ替わる
- 軽度認知障害のある人のほうが、健康な人より改善が大きい
- ネットワーク解析では、心身系運動は実行機能(課題切り替え・作業記憶)で最も高く評価された。全般的認知はレジスタンス、記憶は有酸素運動
- 運動全般のアンブレラレビュー(2,724 RCT・258,279名)では、全般的認知 0.42、記憶 0.26、実行機能 0.24。ヨガの効果量とほぼ同じ範囲
- ヨガ群の脱落率が対照群より大きかった試験がある(完了率 65% 対 95%)
この領域の読み方をまとめると、次のようになります。
効果の方向は一貫しています。低下を報告した研究はなく、有害事象の報告もありません。
しかし効果の大きさは小〜中程度で、運動一般と同程度です。そしてどの領域に効くかは、統合によって順位が入れ替わります。
健康な高齢者に限定した根拠は、5〜6試験しかありません。いずれのレビューも「結論を出すには研究が足りない」と述べています。
実務的な含意として比較的確からしいのは、認知機能を目的にするなら、種目より「何かを続けること」のほうが確実という点です。運動全般で SMD 0.24〜0.42 が得られており、ヨガがそれを明確に上回る証拠はありません。
ただし、ネットワーク解析が心身系運動を実行機能で最も高く評価していること、Gothe らの試験が別の運動を対照にしてなお課題切り替えで差を示したことは、ヨガ特有の要素(注意の配分、動作の切り替え、呼吸との協調)が寄与している可能性を示唆します。これは今後の検証を要する仮説です。
最後に、脱落率の問題を挙げておきます。ある試験ではヨガ群の3分の1が24週を完了しませんでした。どれだけ効果があっても、続かなければ意味がありません。そして続けやすさは、効果量とは別に評価されるべき性質です。
出典
- Gothe NP, McAuley E. Yoga and Cognition: A Meta-Analysis of Chronic and Acute Effects. Psychosomatic Medicine. 2015. DOI: 10.1097/PSY.0000000000000218
- Bhattacharyya KK, et al. Effects of yoga-related mind-body therapies on cognitive function in older adults: A systematic review with meta-analysis. Archives of Gerontology and Geriatrics. 2021. DOI: 10.1016/j.archger.2020.104319
- Hoy S, et al. Effects of yoga-based interventions on cognitive functioning in healthy older adults: a systematic review of randomized controlled trials. Complementary Therapies in Medicine. 2021. DOI: 10.1016/j.ctim.2021.102690
- Eilat-Adar S, et al. The Influence of Yoga on the Cognitive Function of People Aged 60 Years and Older: A Systematic Review. Alternative Therapies in Health and Medicine. 2022.
- Chobe S, et al. Impact of Yoga on cognition and mental health among elderly: A systematic review. Complementary Therapies in Medicine. 2020. DOI: 10.1016/j.ctim.2020.102421
- Gothe NP, Kramer AF, McAuley E. The effects of an 8-week Hatha yoga intervention on executive function in older adults. The Journals of Gerontology Series A. 2014. DOI: 10.1093/gerona/glu095
- Grzenda A, et al. Cognitive and immunological effects of yoga compared to memory training in older women at risk for Alzheimer’s disease. Translational Psychiatry. 2024. DOI: 10.1038/s41398-024-02807-0
- Suk JW, et al. A Meta-Analysis of Studies of the Effect of Mind Body Exercise on Various Domains of Cognitive Function in Older People With or Without Mild Cognitive Impairment. Journal of Evidence-Based Integrative Medicine. 2025. DOI: 10.1177/2515690X251363709
- Han H, et al. Optimal exercise interventions for enhancing cognitive function in older adults: a network meta-analysis. Frontiers in Aging Neuroscience. 2025. DOI: 10.3389/fnagi.2025.1510773
- Singh B, et al. Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2025. DOI: 10.1136/bjsports-2024-108589
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。物忘れや判断力の変化が日常生活に影響している場合は、運動による対処を考える前に医療機関にご相談ください。






