「週150分の中強度運動」「1日1万歩」——どちらも広く知られた目標です。ではこの数字は、どこから来たのでしょうか。そして、その手前や向こう側では何が起きているのでしょうか。
用量反応の研究が明らかにしてきたのは、この関係が直線ではないということです。ほとんど動いていない人が少し動き始めたときの利益が最も大きく、目標値を超えたあたりから曲線は平らになります。つまり「150分」は最適値ではなく、曲線が緩やかになり始める場所です。
ここでは、数千万人規模の統合研究が示している曲線の形を、閾値・上限・強度・頻度に分けて整理します。

最大規模の統合が描いた曲線
Garcia L, et al. Non-occupational physical activity and risk of cardiovascular disease, cancer and mortality outcomes: a dose–response meta-analysis of large prospective studies. British Journal of Sports Medicine. 2023;57(15):979–989. DOI: 10.1136/bjsports-2022-105669
一般成人集団を対象とし、1万人を超える前向きコホート研究のみを集めた用量反応メタ分析です。規模は次のとおりです。
| 項目 | 規模 |
|---|---|
| 論文数 | 196 |
| コホート数 | 94 |
| 参加者 | 3,000万人超 |
| 全死因死亡 | 50の結果、163,415,543 人年、811,616 イベント |
| 心血管疾患罹患 | 37の結果、28,884,209 人年、74,757 イベント |
| がん罹患 | 31の結果、35,500,867 人年、185,870 イベント |
この研究は、身体活動量を mMET時/週(限界代謝当量・時/週)という単位で扱いました。8.75 mMET時/週 が、ガイドラインの「中〜高強度の有酸素性身体活動 週150分」に相当します。
そして曲線の形は、次のように記述されています。
「リスクの差は 0 から 8.75 mMET時/週 のあいだで最も大きく、そこから 17.5 mMET時/週 までは限界的な差が小さくなり、それを超えると追加の差は小さく、かつ不確かであった。」
| アウトカム | 8.75 mMET時/週 における相対リスク | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 全死因死亡 | 0.69 | 0.65〜0.73 |
| 心血管疾患死亡 | 0.71 | 0.66〜0.77 |
| がん死亡 | 0.85 | 0.81〜0.89 |
がん死亡への関連が、全死因・心血管疾患より明らかに弱い点は注目に値します。「運動はあらゆる死因に等しく効く」わけではありません。
著者らは集団寄与の推定も行っています。「活動が不十分なすべての人が 8.75 mMET時/週 を達成していたら、早世の 15.7%(95%CI 13.1〜18.2)が回避されていた」。
曲線のいちばん急な部分はどこか
自己申告ではなく、加速度計で測った研究を統合したものを見ると、曲線の形がより鮮明になります。
Ekelund U, et al. Dose-response associations between accelerometry measured physical activity and sedentary time and all cause mortality: systematic review and harmonised meta-analysis. The BMJ. 2019;366:l4570. DOI: 10.1136/bmj.l4570
個人レベルのデータを調和させて解析したもので、8研究・36,383名(平均62.6歳、女性72.8%)、追跡期間中央値5.8年、2,149名(5.9%)の死亡が対象です。四分位で比較した結果は次のとおりでした。
| 四分位 | 総身体活動量 | 低強度身体活動 | 中〜高強度身体活動 | 座位時間 |
|---|---|---|---|---|
| 第1(最も少ない/座位は最も短い) | 1.00(基準) | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
| 第2 | 0.48(0.43〜0.54) | 0.60(0.54〜0.68) | 0.64(0.55〜0.74) | 1.28(1.09〜1.51) |
| 第3 | 0.34(0.26〜0.45) | 0.44(0.38〜0.51) | 0.55(0.40〜0.74) | 1.71(1.36〜2.15) |
| 第4(最も多い/座位は最も長い) | 0.27(0.23〜0.32) | 0.38(0.28〜0.51) | 0.52(0.43〜0.61) | 2.63(1.94〜3.56) |
最も注目すべきは第1四分位から第2四分位への落差です。総身体活動量では、ここだけで死亡リスクが半分以下(HR 0.48)になっています。そこから先の第3・第4への追加的な低下は、それに比べればずっと緩やかです。
もうひとつ重要なのは、低強度の身体活動でも明確な関連が出ていることです。第4四分位で HR 0.38。中〜高強度(0.52)と比べても遜色ありません。著者らの結論は「強度を問わず、総身体活動量が多いほど、また座位時間が短いほど、早世のリスクが実質的に低い」というものでした。
そして座位時間については逆方向に、しかも急峻です。最も座位が長い四分位のハザード比は 2.63。

「1日1万歩」はどこから来たか
歩数の目標については、根拠を問い直す研究が続いています。
Paluch AE, et al. Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. The Lancet Public Health. 2022;7(3):e219–e228. DOI: 10.1016/S2468-2667(21)00302-9
冒頭で著者らはこう書いています。「1日1万歩は健康に有益であると広く喧伝されているが、この推奨を支持する証拠はほとんどない。」
15研究(既発表7・未発表8)の参加者レベルのデータを標準化したプロトコルで処理した統合です。総サンプルは47,471名、追跡期間中央値7.1年、3,013名の死亡(1,000人年あたり10.1)。
| 四分位 | 歩数の中央値 | 調整後ハザード比(95%CI) |
|---|---|---|
| 第1 | 3,553歩 | 1.00(基準) |
| 第2 | 5,801歩 | 0.60(0.51〜0.71) |
| 第3 | 7,842歩 | 0.55(0.49〜0.62) |
| 第4 | 10,901歩 | 0.47(0.39〜0.57) |
ここでも第1→第2の落差が最も大きくなっています。そして制限3次スプラインによる解析から、頭打ちになる水準が年齢で違うことが示されました。
60歳以上:6,000〜8,000歩/日まで、リスクが漸進的に低下
60歳未満:8,000〜10,000歩/日まで、リスクが漸進的に低下
歩く「速さ」についても検討されています。歩数で調整したうえで、最も速い層と最も遅い層を比較すると、ピーク30分の歩調(HR 0.67、0.56〜0.83)とピーク60分の歩調(HR 0.67、0.50〜0.90)では関連が残った一方、毎分40歩以上で歩いた時間(HR 1.12)と毎分100歩以上で歩いた時間(HR 0.86)では有意ではありませんでした。
2025年の最新の統合
Ding D, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis. The Lancet Public Health. 2025. DOI: 10.1016/S2468-2667(25)00164-1
全死因死亡だけでなく、心血管疾患、がん、2型糖尿病、認知、メンタルヘルス、身体機能、転倒までを対象にした統合です。系統的レビューに57研究(35コホート)、メタ分析に31研究(24コホート)が含まれました。PROSPERO 登録済み(CRD42024529706)、GRADE で確実性を評価しています。
まず曲線の形がアウトカムによって違うことが示されました。
| 曲線の形 | アウトカム |
|---|---|
| 逆の非線形(約5,000〜7,000歩/日に変曲点) | 全死因死亡、心血管疾患罹患、認知症、転倒 |
| 逆の線形 | 心血管疾患死亡、がん罹患、がん死亡、2型糖尿病罹患、抑うつ症状 |
2,000歩/日を基準とした 7,000歩/日 の関連は次のとおりです。
| アウトカム | ハザード比(95%CI) | 低下 | GRADE確実性 |
|---|---|---|---|
| 全死因死亡 | 0.53(0.46〜0.60) | 47% | 中 |
| 心血管疾患罹患 | 0.75(0.67〜0.85) | 25% | 中 |
| 心血管疾患死亡 | 0.53(0.37〜0.77) | 47% | 低 |
| がん罹患 | 0.94(0.87〜1.01) | 6%(有意でない) | 低 |
| がん死亡 | 0.63(0.55〜0.72) | 37% | 中 |
| 2型糖尿病 | 0.86(0.74〜0.99) | 14% | 中 |
| 認知症 | 0.62(0.53〜0.73) | 38% | 中 |
| 抑うつ症状 | 0.78(0.73〜0.83) | 22% | 中 |
| 転倒 | 0.72(0.65〜0.81) | 28% | 非常に低い |
著者らの結論はこうです。「1万歩/日は、より活動的な人にとって依然として妥当な目標でありうるが、7,000歩/日 は臨床的に意味のある健康アウトカムの改善と関連しており、一部の人にとってより現実的で達成可能な目標かもしれない。」
ただし同時に、限界も明記されています。「大半のアウトカムで利用可能な研究数が少ないこと、年齢別解析の欠如、個別研究レベルでのバイアス(残存交絡を含む)」。がん罹患は有意に達しておらず、転倒の確実性は「非常に低い」です。
推定値がばらつくこと自体を調べた研究
Rodríguez-Gutiérrez E, et al. Daily steps and all-cause mortality: An umbrella review and meta-analysis. Preventive Medicine. 2024;186:108047. DOI: 10.1016/j.ypmed.2024.108047
この論文の目的は、歩数と死亡の関連についてのメタ分析どうしで推定値がなぜばらつくのかを記述することでした。11のメタ分析つき系統的レビューと14のコホート研究が対象です。
著者らは「結果の提示方法に相当のばらつきが認められた」と述べ、その主因を「曝露の定量化方法の違い」としています。同じデータを見ていても、歩数をどう区切るかで結論が変わる、ということです。
そのうえで更新したメタ分析では、保護的な閾値は 3,143歩/日、1,000歩/日 増えるごとのハザード比は 0.91(0.87〜0.95)でした。最も活動的な層(12,500歩/日超)のハザード比は 0.35(0.29〜0.42)です。
より古い統合でも、1,000歩ごとの係数は近い値です。Jayedi ら(2021, Sports Medicine)は7研究・175,370人年・2,310件の死亡から、1,000歩/日ごと HR 0.88(0.83〜0.93)、70歳超では 0.87、歩調で調整した研究では 0.92 と報告しました。この研究は GRADE で「大きな効果量と用量反応勾配のためグレードを上げ、確実性は強い(strong)」と評価しています。10,000歩/日 の HR は 0.44(0.31〜0.63)でした。
17コホート・226,889名を統合した別の研究では、1,000歩増加ごとに全死因死亡が15%低下(HR 0.85、0.81〜0.91)、500歩増加ごとに心血管死亡が7%低下(HR 0.93、0.91〜0.95)と報告されています。カットオフは全死因死亡で 3,867歩/日、心血管死亡ではわずか 2,337歩/日でした(Banach ら, 2023, European Journal of Preventive Cardiology)。
上限はあるのか
「やりすぎると逆に悪い」という説を検証した研究があります。
Blond K, et al. Association of high amounts of physical activity with mortality risk: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2020;54(20):1195–1201. DOI: 10.1136/bjsports-2018-100393
31,368件から選ばれた48研究を対象に、ランダム効果の制限3次スプラインによる用量反応メタ分析を行ったものです。推奨水準(750 MET分/週)を基準として、それを超える水準での死亡リスクを推定しました。
| アウトカム | 5,000 MET分/週 におけるハザード比 | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 全死因死亡 | 0.86 | 0.78〜0.94 |
| 心血管疾患死亡 | 0.73 | 0.56〜0.95 |
結論は明快です。「推奨水準と比較して、推奨される目標範囲を大きく超える身体活動水準でも死亡リスクは低かった。さらに、それを超えると寿命が損なわれるような閾値は存在しなかった。」
ただし著者らは限界も述べています。「含まれた研究が観察研究であること、身体活動量の推定が不正確であること」。極端に多く運動する人は、そもそも運動できる健康状態にある——という逆因果の可能性は、観察研究では完全には排除できません。
高齢者に絞ったアンブレラレビューも、同じ方向を示しています。16の系統的レビューを対象としたものでは、7.5〜15.0 MET時/週(ガイドライン推奨水準の周辺)で全死因死亡が約19〜30%、心血管死亡が約25〜34%低下し、15.0〜22.5 MET時/週(推奨水準を超える)では、それぞれ35〜37%、38〜40%とさらに大きく低下しました。著者らは「将来の国際ガイドラインを策定する際、現在の推奨を超える水準を勧めることが高齢者に有益でありうる」と述べています(Fukushima ら, 2023, JAMDA)。

週に何日やればよいか
合計量ではなく「頻度」に着目した研究もあります。
Inoue K, et al. Association of Daily Step Patterns With Mortality in US Adults. JAMA Network Open. 2023;6(3):e235174. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.5174
NHANES 2005–2006 の代表標本3,101名が加速度計を1週間装着し、2019年末まで死亡が追跡されました。「週に何日、8,000歩以上を歩いたか」で群分けしています。
| 週に8,000歩以上の日数 | 人数(%) | 全死因死亡の調整後リスク差(95%CI) |
|---|---|---|
| 0日 | 632(20.4%) | 基準 |
| 1〜2日 | 532(17.2%) | −14.9%(−18.8〜−10.9) |
| 3〜7日 | 1,937(62.5%) | −16.5%(−20.4〜−12.5) |
週1〜2日でリスク差の大部分が得られており、3日以上では保護的な関連が頭打ちになりました。しかもこの解析は、平均の1日歩数を含む交絡因子で調整したうえでの結果です。6,000歩から10,000歩まで閾値を変えても同様の結果でした。
著者らの結論は「週にたった数日歩くだけでも、相当な健康上の便益が得られる可能性がある」というものです。
強度は何倍に換算できるか
「高強度の1分は、中強度の何分に相当するのか」を直接推定した研究があります。
Stamatakis E, et al. Dose Response of Incidental Physical Activity Against Cardiovascular Events and Mortality. Circulation. 2025. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.124.072253
UK Biobank の加速度計サブスタディから、余暇に運動をしていない24,139名(女性56.2%、平均61.9±7.6歳)を対象としたものです。余暇以外の日常生活に含まれる身体活動(incidental physical activity, IPA)を、機械学習による強度分類器で高強度・中強度・低強度に分けました。追跡7.9年で MACE 908件、心血管死亡223件、全死因死亡1,071件。
IPA の総量は L 字型の関連を示し、最下点は約 35〜38 kJ/kg/日 でした。そこでのハザード比は次のとおりです。
| アウトカム | ハザード比(95%CI) |
|---|---|
| 主要心血管イベント(MACE) | 0.49(0.39〜0.61) |
| 心血管死亡 | 0.33(0.22〜0.52) |
| 全死因死亡 | 0.31(0.25〜0.38) |
そして「健康上の等価性」が推定されました。
高強度の1分 = 中強度の 2.8分(MACE)〜3.4分(心血管死亡)
高強度の1分 = 低強度の 34.7分(心血管死亡)〜48.5分(MACE)
頭打ちになる時間も報告されています。高強度は約14分/日、中強度は約34〜50分/日。中央値である高強度4.6分/日 と中強度23.8分/日 でも、心血管死亡のハザード比はそれぞれ 0.62、0.50 でした。
一方、低強度の関連はごく弱く、統計的に有意だったのは心血管死亡について130分/日を超えた場合のみでした。これは前述の Ekelund らの加速度計統合(低強度でも第4四分位 HR 0.38)とは方向が異なります。対象(運動習慣のない人に限定)と解析手法が違うため単純に比較はできませんが、低強度活動の価値については研究間で一致していないと理解しておくのが正確です。
虚弱かどうかで曲線が変わる
日本のデータからも、重要な知見が出ています。
Watanabe D, et al. Dose–Response Relationships between Objectively Measured Daily Steps and Mortality among Frail and Nonfrail Older Adults. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2023;55(6):1044–1053. DOI: 10.1249/MSS.0000000000003133
京都・亀岡研究のデータで、65歳以上の地域在住高齢者4,165名が三軸加速度計を装着したものです。虚弱は基本チェックリストで評価されました。追跡期間中央値3.38年(14,061人年)で113名が死亡。
| 四分位 | 平均歩数/日 |
|---|---|
| 第1 | 1,786 |
| 第2 | 3,030 |
| 第3 | 4,452 |
| 第4 | 7,502 |
交絡因子で調整後、第4四分位は第1四分位よりハザード比が低く(HR 0.39、95%CI 0.18〜0.85)。そして虚弱の有無で層別すると、曲線の形が違いました。
非虚弱:約5,000〜7,000歩/日 でハザード比が頭打ちになる
虚弱:約5,000歩/日 以上で、死亡と逆相関を示す
著者らは「虚弱のある人は、虚弱のない人よりも、死亡との逆相関を得るためにより多くの歩数を必要とするかもしれない」と述べています。同じ歩数目標が、状態の違う人に同じ意味を持つとは限らないということです。
すでに病気がある人ではどうか
Geidl W, et al. Dose–response relationship between physical activity and mortality in adults with noncommunicable diseases: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 2020;17:109. DOI: 10.1186/s12966-020-01007-5
診断後の身体活動と死亡の関係を、疾患別に統合したものです。28研究(乳がん12・2型糖尿病6・虚血性心疾患8・COPD 2)が対象でした。週あたり 10 MET時 増えるごとの死亡率低下は次のとおりです。
| 疾患 | ハザード比(95%CI) | 低下 | I² |
|---|---|---|---|
| 乳がん | 0.78(0.71〜0.86) | 22% | 90.1% |
| COPD | 0.70(0.45〜1.09) | 30%(有意でない) | 94% |
| 虚血性心疾患 | 0.88(0.83〜0.93) | 12% | 86.5% |
| 2型糖尿病 | 0.96(0.93〜0.99) | 4% | 71.8% |
ここでも「低い活動水準でもリスク低下が見られ、高い水準では曲線が平らになる」という、閾値なし・非線形のパターンが示されました。ただし異質性(I²)がいずれも70%を超えて高く、エビデンスの確実性は乳がん・2型糖尿病・虚血性心疾患で「低」、COPD では「非常に低い」と評価されています。2型糖尿病の4%という数字は、区間の上限が 0.99 とほぼ1に接しています。
ガイドラインの数字をどう読むか
ここまでの知見を並べると、「週150分」「1日1万歩」という数字の性格が見えてきます。
これらは「そこまでやれば十分」でも「そこから効き始める」でもない。曲線が緩やかになり始める場所を、覚えやすい形に丸めた目安である。
実務的に重要なのは、次の非対称性です。
- ゼロに近い人が少し動くときの利益が、圧倒的に大きい。Ekelund らの統合では、最も動いていない四分位から次の四分位へ移るだけで HR 0.48
- 目標に近い人がさらに増やしても、利益の増分は小さい。Garcia らの統合では 8.75 を超えると「限界的な差が小さくなる」、17.5 を超えると「小さく、かつ不確か」
- ただし増やして害になる証拠もない。Blond らは 5,000 MET分/週 まで低下が続き、寿命が損なわれる閾値はなかったと報告
この形から導かれる含意は、集団全体の目標を引き上げるより、最も動いていない層を少し動かすほうが、得られる健康上の利益の総和が大きいということです。Garcia らが推定した「早世の15.7%が回避可能」という数字も、すでに活動的な人をさらに活動的にした場合ではなく、活動が不十分な人が推奨水準に達した場合の推定です。
個人にとっての読み替え
個人の水準では、次のように読むのが実情に近いと言えます。
| いまの状態 | 証拠から言えること |
|---|---|
| ほとんど動いていない | 最も伸びしろが大きい層。3,000歩前後から保護的な関連が始まるという報告がある |
| 週に数日だけ歩いている | 週1〜2日の8,000歩でも、リスク差の大部分が得られたという報告がある |
| ガイドラインを満たしている | さらに増やす利益の増分は小さいが、害の証拠もない |
| 65歳以上・虚弱でない | 5,000〜7,000歩で曲線が頭打ちになるという日本のデータがある |
| 65歳以上・虚弱 | 5,000歩以上でようやく逆相関が現れたという報告がある |
| 時間が取れない | 高強度1分は中強度2.8〜3.4分に相当するという推定がある |
| 座っている時間が長い | 座位最長四分位のハザード比 2.63。活動量とは別に扱う必要がある |
この領域の限界
最後に、ここまでの数字すべてに共通する限界を確認しておきます。
これらはほぼすべて観察研究である。無作為に「週150分運動する群」と「しない群」に割り付けて数十年追跡した試験は存在しない。
したがって逆因果(病気があるから動けない、のであって、動かないから病気になったのではない可能性)と残存交絡(運動する人は喫煙が少なく所得が高い、といった調整しきれない差)が常に残る。
この領域を概観したナラティブレビューでは、無作為化比較試験とメンデルランダム化研究が身体活動と健康アウトカムの因果を支持するとしつつ、「無作為化比較試験の証拠が乏しいこと、および曝露のコントラスト、健康なボランティアのバイアス、追跡からの脱落、実世界での用量反応データの限界といった固有の課題」が指摘されています。そのうえで著者らは、多様な研究デザインからの知見を統合する包括的なアプローチを提唱しています(Ekelund ら, 2024, Journal of Sport and Health Science)。
また、Ding らの2025年の統合が「大半のアウトカムで研究数が少ない」「年齢別解析がない」と明記しているように、歩数のような新しい指標ほど、蓄積された研究が少ない点にも注意が必要です。
いま言えること
- 196論文・94コホート・3,000万人超の統合では、リスク差は 0〜8.75 mMET時/週(=週150分相当)で最も大きく、17.5 を超えると追加の差は小さく不確か
- 8.75 mMET時/週 での相対リスクは、全死因死亡 0.69、心血管死亡 0.71、がん死亡 0.85。がん死亡への関連は明らかに弱い
- 加速度計による統合では、最も不活動な四分位から次の四分位へ移るだけで HR 0.48
- 低強度の身体活動でも第4四分位 HR 0.38。ただし運動習慣のない人に限定した別研究では低強度の関連はごく弱く、研究間で一致していない
- 座位時間は逆方向に急峻。最長四分位 HR 2.63
- 1万歩の根拠は乏しい。頭打ちは60歳以上で6,000〜8,000歩、60歳未満で8,000〜10,000歩
- 2025年の統合は7,000歩/日を「より現実的な目標」として提示。2,000歩比で全死因死亡 47%低下(確実性 中)。ただしがん罹患は有意でなく(6%)、転倒の確実性は「非常に低い」
- 1,000歩増えるごとのハザード比は 0.85〜0.91 と研究間で幅がある。主因は曝露の定量化方法の違い
- 上限の証拠はない。5,000 MET分/週 まで低下が続き、寿命が損なわれる閾値はなかった
- 週1〜2日の8,000歩でもリスク差の大部分が得られ、3日以上で頭打ち
- 高強度1分 = 中強度2.8〜3.4分 = 低強度34.7〜48.5分
- 虚弱の有無で曲線が違う。非虚弱は5,000〜7,000歩で頭打ち、虚弱は5,000歩以上で逆相関
- すでに疾患がある人でも関連は見られるが、効果量は疾患により大きく異なり(乳がん22%〜2型糖尿病4%)、確実性は低い〜非常に低い
- これらはほぼすべて観察研究であり、逆因果と残存交絡が残る
この領域の最も再現性の高い所見は、効果量の大小ではなく曲線の形です。直線ではなく、最初が急で後が平ら。この形は、自己申告でも加速度計でも、歩数でも MET でも、先進国でも中所得国でも、健康な人でも疾患のある人でも、繰り返し観察されています。
したがって「どれだけやるか」より先に問うべきなのは、「いま曲線のどこにいるか」です。同じ「30分の散歩」が、ほとんど動いていない人と、すでに週に何度も運動している人とで、まったく違う意味を持ちます。
出典
- Garcia L, et al. Non-occupational physical activity and risk of cardiovascular disease, cancer and mortality outcomes: a dose–response meta-analysis of large prospective studies. British Journal of Sports Medicine. 2023. DOI: 10.1136/bjsports-2022-105669
- Ekelund U, et al. Dose-response associations between accelerometry measured physical activity and sedentary time and all cause mortality: systematic review and harmonised meta-analysis. The BMJ. 2019;366:l4570. DOI: 10.1136/bmj.l4570
- Paluch AE, et al. Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 international cohorts. The Lancet Public Health. 2022. DOI: 10.1016/S2468-2667(21)00302-9
- Ding D, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis. The Lancet Public Health. 2025. DOI: 10.1016/S2468-2667(25)00164-1
- Rodríguez-Gutiérrez E, et al. Daily steps and all-cause mortality: An umbrella review and meta-analysis. Preventive Medicine. 2024;186:108047. DOI: 10.1016/j.ypmed.2024.108047
- Jayedi A, et al. Daily Step Count and All-Cause Mortality: A Dose–Response Meta-analysis of Prospective Cohort Studies. Sports Medicine. 2021. DOI: 10.1007/s40279-021-01536-4
- Banach M, et al. The association between daily step count and all-cause and cardiovascular mortality: a meta-analysis. European Journal of Preventive Cardiology. 2023. DOI: 10.1093/eurjpc/zwad229
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この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。持病がある方、治療中の方、長く運動から離れていた方が運動量を増やす際は、開始前にかかりつけ医にご相談ください。






