「運動すると頭が良くなる」——この主張は、教育政策の議論から学校のカリキュラム編成まで、幅広い場面で引用されてきました。体育の時間を削って教科の時間に回すべきかという問いに対しても、この研究群が持ち出されます。

結論を先に述べると、認知機能(とくに実行機能)への効果は小さいながら一貫して観察されるが、学業成績への効果は確認されていない——これが現時点での最も正確な要約です。ただし例外があり、算数・数学だけは別の扱いを受けています。この記事では、その非対称がどこから来るのかを追います。

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用語の整理

この領域で中心的な指標となるのが実行機能(executive function)です。通常は3つの中核要素に分けられます。

  • 抑制制御(inhibitory control):不適切な反応を抑える
  • ワーキングメモリ(working memory):情報を保持しながら操作する
  • 認知的柔軟性(cognitive flexibility):切り替える

実行機能は学業成績を有意に予測することが知られており、そのため「運動 → 実行機能 → 学業成績」という経路が想定されてきました。しかし後述するとおり、この経路は途中で切れている可能性があります。

学会の公式見解:認知はB、学業成績はC

Donnelly JE, Hillman CH, Castelli D, et al. Physical Activity, Fitness, Cognitive Function, and Academic Achievement in Children: A Systematic Review. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2016;48(6):1197–1222.

米国スポーツ医学会の公式見解(position stand)です。2つの検索を行い、認知・学習・脳の構造と機能について64研究、学業成績と集中・注意について73研究を採用しました。

結論部分の評価は、次のように分かれています。

アウトカム証拠カテゴリ評価記述
認知、脳の構造と機能B身体活動は認知、および脳の構造と機能に正の影響を持つ
学業成績C「身体活動と体育は学業成績に中立的な効果を持つ」

この見解は同時に、重要な確認も行っています。「身体活動の増加が認知や学業成績に負の影響を与えるという示唆は、文献には見当たらない。」体育の時間を教科に振り替えても成績は上がらず、体育を増やしても成績は下がらない、という整理です。

方法論上の限界も明記されています。無作為化比較試験の不足、検出力の不足、アウトカム測定の盲検化の欠如、既知の交絡因子の未調整——「そのため、多くの研究が複数の設計上の限界のために高いバイアスリスクと評価された」。

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質の高い研究だけを見ると

方法論的な質で選別したレビューがあります。

Singh AS, Saliasi E, van den Berg V, et al. Effects of physical activity interventions on cognitive and academic performance in children and adolescents: a novel combination of a systematic review and recommendations from an expert panel. British Journal of Sports Medicine. 2019;53(10):640–647.

58件の介入研究のうち、方法論的な質が高いと評価されたのは11件(19%)のみでした。この11件に限って評価した結果が次のとおりです。

アウトカム有意な便益を示した割合
認知成績21の構成概念のうち 10(48%)
学業成績25の解析のうち 15(60%)
算数・数学7つのアウトカムのうち 6(86%)

著者らの結論は、慎重に二段構えになっています。

「現時点では、身体活動介入の認知成績および全般的な学業成績への有益な効果について、証拠は決定的でない(inconclusive)。我々は、身体活動の数学成績への有益な効果については強い証拠があると結論する。」

専門家パネルが挙げた46の研究課題のうち、最も切迫した優先クラスターは「身体活動と認知・学業成績の関係における因果性」でした。関連が観察されていることと、因果が示されていることは別だという認識です。

最大規模の統合:92のRCT、25,334名

近年発表された三水準メタ分析が、もっとも詳細な内訳を示しています。

Vasilopoulos F, Jeffrey H, Wu Y, Dumontheil I. Multi-Level Meta-Analysis of Physical Activity Interventions During Childhood: Effects of Physical Activity on Cognition and Academic Achievement. Educational Psychology Review. 2023;35:75.

5〜12歳の定型発達児を対象とした92件の無作為化対照試験(N = 25,334)を、入れ子構造の効果量を扱える三水準モデルで統合しました。

アウトカム効果量(g)証拠の確実性
課題従事行動(on-task behaviour)1.04(0.08〜2.00)、p = 0.03きわめて低い
創造性0.70(0.20〜1.20)、p < 0.01低い
流動性知能0.16(0.02〜0.30)、p = 0.03中程度
ワーキングメモリ0.18(0.07〜0.29)、p = 0.01きわめて低い
注意・抑制制御・計画・認知的柔軟性全体としての便益は観察されず
学業成績全体としての便益は観察されず

効果量が大きかった2つ——課題従事行動と創造性——は、いずれも証拠の確実性が低いか、きわめて低いと評価されています。逆に確実性が中程度だった流動性知能の効果量は 0.16 と小さいものです。

ただし調整変数の解析からは、条件による違いが見えています。教科指導と組み合わせた6〜10週間・中〜中高強度の身体活動は数学のアウトカムに有益で、内容を豊かにしたプログラムは言語のアウトカムに有益、そして中高強度の有酸素活動は実行機能に有益でした。著者らはこれを「身体活動の種類によって、認知の異なる側面への影響機序が異なることを示唆する」と解釈しています。

実行機能に絞った統合

実行機能だけを扱った統合も、同程度の効果量を報告しています。

Xue Y, Yang Y, Huang T. Effects of chronic exercise interventions on executive function among children and adolescents: a systematic review with meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2019;53(22):1397–1404.

19研究・5,038名を統合した結果、全般的な実行機能に SMD 0.20(95%CI 0.09〜0.30)、抑制制御に 0.26(0.08〜0.45)でした。介入の様式による差が明確です。

介入の様式・条件全般的実行機能への効果
スポーツ・身体活動プログラムSMD 0.21(0.12〜0.31)、有意
カリキュラム内の身体活動SMD 0.39(0.08〜0.69)、有意
統合型の身体活動SMD 0.02(−0.05〜0.09)、有意でない
1回90分未満SMD 0.24(0.10〜0.39)、p = 0.02
1回90分以上SMD 0.05(−0.03〜0.14)、有意でない

メタ回帰では、BMI が高いほど実行機能の改善が大きく(β = 0.03、p < 0.05)、年齢と運動期間は関連しませんでした。長くやるほど良いわけではなく、むしろ1回90分以上では効果が消えています。

BMI が調整変数として出てくることは、個別の試験とも整合します。座位中心で過体重の7〜11歳171名(女子56%、黒人61%)を、1日20分の運動、1日40分の運動、対照に無作為化した13週間の試験では、実行機能と数学成績の両方に用量反応的な便益が観察されました(Davis ら, 2011, Health Psychology)。機能的MRIでは、両側前頭前野の活動増加と両側後部頭頂皮質の活動低下も予備的に確認されています。

つまり、効果が出やすいのは、出発点の身体活動量が低い集団である可能性があります。すでに十分に動いている集団では、上乗せの余地が小さいという解釈です。これは後述する大規模試験の null 結果とも矛盾しません。

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大規模な長期試験は、効果を見つけていない

ここが、この分野でもっとも重く受け止められるべき部分です。厳密に設計された大規模試験の多くが、学業成績への効果を検出できていません。

Donnelly JE, Hillman CH, Greene JL, et al. Physical activity and academic achievement across the curriculum: Results from a 3-year cluster-randomized trial. Preventive Medicine. 2017;99:140–145.

米国カンザス州の小学校17校をクラスター無作為化し、担任教師が中高強度の身体活動を用いて教科の授業を行う介入(A+PAAC、9校)と対照(8校)を3年間比較しました。学業成績は標準化検査(WIAT-III)で年1回測定しています。

ベースラインの得点差、民族、世帯収入、心血管フィットネスを調整した線形混合モデルの結果、A+PAAC はいずれの学業成績アウトカムにも有意な影響を及ぼさなかった(群 × 時間の交互作用が有意でない)。「A+PAAC は3年間にわたり、対照と比べて学業成績を低下させも向上させもしなかった。」

ただし、目標としていた週100分の活動的授業は達成されず、実際には週55分でした。著者らは「それでも生徒は週55分の追加の中高強度身体活動を、教科指導の時間を減らすことなく受け取った」と述べています。

同様の結果が続いています。

  • オランダの22校・891名を14週間追跡したクラスターRCT。有酸素型と認知関与型の2つの介入を比較したが、介入後の学業成績は対照群と有意に差がなかった(de Greeff ら, 2020, Journal of Sports Sciences)。ただし中高強度活動の量が多いほど数学の成績が良く、読解の低成績者は認知関与型介入後に改善した
  • ノルウェーの46幼稚園・1,265名を7か月追跡したクラスターRCT。主解析では認知・学習アウトカムへの効果が見られなかった(Vabø ら, 2025, Journal of Sports Sciences)。著者らは「教育現場での実用的な試験は、身体活動の実践を変え、幼児の認知発達と学習に影響を与えることに困難を抱えている」と結論

一方で、大きな効果を報告した試験もある

Takehara K, Togoobaatar G, Kikuchi A, et al. Exercise Intervention for Academic Achievement Among Children: A Randomized Controlled Trial. Pediatrics. 2021;148(5):e2021052808.

モンゴル・ウランバートルの公立小学校10校、4年生2,301名を対象としたクラスター無作為化試験です。介入は1回3分の高強度インターバル運動(ジャンプ、スクワット、各種ステップ)を週2回、10週間、1回あたり10〜25分実施するというものでした。

全国学力試験の得点で、都市部で8.36点(95%CI 6.06〜10.66)、混合住宅地域で9.55点(6.58〜12.51)の改善が報告されています。介入に伴う傷害はありませんでした。

この結果を他の試験と並べると、効果の有無が集団と文脈に強く依存している可能性が浮かびます。ベースラインの身体活動量、栄養状態、教育環境が異なる集団では、同じ介入でも結果が変わりうるということです。

なぜ「数学だけ」なのか

複数の統合が、数学に対する効果を他教科より一貫して報告しています。17研究を統合した最近のメタ分析でも、数学 SMD 0.11(0.04〜0.18、p = 0.001)、全般的学業成績 SMD 0.22(0.01〜0.44、p = 0.040)で、数学のほうが異質性が小さい結果でした(He ら, 2025, Frontiers in Public Health)。

確立した説明はありませんが、いくつかの可能性が議論されています。数学の課題は実行機能——とくにワーキングメモリと抑制制御——への依存度が高いこと。読解や語彙が家庭の言語環境に強く規定されるのに対し、数学は学校での介入の影響を受けやすいこと。そして、数学の標準化テストが短期間の変化を検出しやすいこと。

ただし、上記 Vasilopoulos らの92研究の統合では学業成績全体に効果が観察されておらず、数学への効果も「教科指導と組み合わせた6〜10週間・中〜中高強度」という条件下での調整変数解析から出てきたものです。無条件に成り立つ効果ではありません。

効果が出やすい条件

層別解析から比較的一貫して出ている条件を整理します。

  • 認知的に関与する運動(cognitively engaging)。単純な有酸素運動より、判断や協応を要する活動。20のRCTを検討したレビューは「大きな効果量を示した研究に共通していたのは、チームゲームの変化形と協応活動を含んでいたこと」と報告している(Vorkapic ら, 2021, Neuropsychobiology)
  • 1回90分未満。それ以上では実行機能への効果が消える
  • ADHD のある学齢児では効果量が大きい。19研究の統合で認知的柔軟性 SMD 0.70、ワーキングメモリ 0.74(Li ら, 2025, Journal of Affective Disorders)
  • 就学前児では抑制制御に最も効く。31のRCT・2,330名で抑制制御 SMD 0.42、ワーキングメモリ 0.30、認知的柔軟性 0.25(Liu ら, 2026, Frontiers in Psychology)

最後の研究には、方法論上の重要な指摘が含まれています。受動的対照群(何もしない群)を用いた介入は、能動的対照群を用いた介入より一貫して大きな効果量を示しました(抑制制御とワーキングメモリで p < 0.001)。つまり報告されている効果量の一部は、「運動の効果」ではなく「何かをした効果」である可能性があります。

いま言えること

  • 実行機能への効果は小さいが観察される。19研究5,038名で SMD 0.20、抑制制御 0.26
  • 学業成績への効果は確認されていない。米国スポーツ医学会の評価は C(中立的)。92研究25,334名の統合でも全体としての便益なし。3年間の大規模クラスターRCTでも効果なし
  • 例外は数学。質の高い11研究では7アウトカム中6で有益。ただし「教科指導と組み合わせた中〜中高強度」という条件下
  • 効果が出やすいのは、認知的に関与する運動で、1回90分未満。統合型の身体活動と90分以上のセッションでは効果が消える
  • 報告されている効果量の一部は、受動的対照群との比較によって膨らんでいる可能性がある
  • 身体活動を増やすことが認知や学業成績を下げるという証拠は、文献に見当たらない

教育政策への含意は、ひとつに絞れます。「体育を減らせば成績が上がる」という前提には根拠がなく、「体育を増やせば成績が上がる」という前提にも同程度に根拠がありません。身体活動を学校に置く理由は、成長と健康それ自体にあります。学業成績はその理由にならない——それが、この20年の研究が示したことです。

出典

  1. Donnelly JE, Hillman CH, Castelli D, et al. Physical Activity, Fitness, Cognitive Function, and Academic Achievement in Children: A Systematic Review. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2016;48(6):1197–1222.
  2. Singh AS, Saliasi E, van den Berg V, et al. Effects of physical activity interventions on cognitive and academic performance in children and adolescents: a novel combination of a systematic review and recommendations from an expert panel. British Journal of Sports Medicine. 2019;53(10):640–647.
  3. Vasilopoulos F, Jeffrey H, Wu Y, Dumontheil I. Multi-Level Meta-Analysis of Physical Activity Interventions During Childhood: Effects of Physical Activity on Cognition and Academic Achievement. Educational Psychology Review. 2023;35:75.
  4. Xue Y, Yang Y, Huang T. Effects of chronic exercise interventions on executive function among children and adolescents: a systematic review with meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2019;53(22):1397–1404.
  5. Donnelly JE, Hillman CH, Greene JL, et al. Physical activity and academic achievement across the curriculum: Results from a 3-year cluster-randomized trial. Preventive Medicine. 2017;99:140–145.
  6. de Greeff JW, Hartman E, Bosker RJ, Doolaard S, Visscher C. Effects of aerobic and cognitively-engaging physical activity on academic skills: A cluster randomized controlled trial. Journal of Sports Sciences. 2020;38(15):1806–1817.
  7. Vabø KB, et al. Effects of preschool staff professional development in physical activity on self-regulation, executive function and early academic learning in 3–5-year-old children: The ACTNOW cluster-randomized controlled trial. Journal of Sports Sciences. 2025;43(6):1–14.
  8. Takehara K, Togoobaatar G, Kikuchi A, et al. Exercise Intervention for Academic Achievement Among Children: A Randomized Controlled Trial. Pediatrics. 2021;148(5):e2021052808.
  9. He H, Yang Y, Sun J, Wang Y, Zhang M, Zhu L. Effects of school-based physical activity on academic achievement in children and adolescents: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Public Health. 2025;13:1651883.
  10. Vorkapic CF, et al. Does Physical Activity Improve Cognition and Academic Performance in Children? A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Neuropsychobiology. 2021;80(5):454–482.
  11. Li D, et al. Effect of physical activity interventions on executive functions in school-age children with ADHD: A meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of Affective Disorders. 2025;375:1–10.
  12. Liu W, Wang J, Yi X, Li M. The effects of physical activity on executive function in preschool children: a meta-analysis of randomized controlled trials. Frontiers in Psychology. 2026;17:1882118.
  13. Davis CL, Tomporowski PD, McDowell JE, et al. Exercise Improves Executive Function and Achievement and Alters Brain Activation in Overweight Children: A Randomized Controlled Trial. Health Psychology. 2011;30(1):91–98.
  14. de Greeff JW, Bosker RJ, Oosterlaan J, Visscher C, Hartman E. Effects of physical activity on executive functions, attention and academic performance in preadolescent children: a meta-analysis. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018;21(5):501–507.

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。

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