傷害予防プログラムの効果について、最も強い証拠と最も弱い証拠が、同じ時期に出ています。
| 研究 | 結果 | 確実性 |
|---|---|---|
| Bullock ら, 2025(82研究154,561名) | 前十字靱帯損傷が61%減少(0.39、0.25〜0.60) | 高い |
| 足関節捻挫が39%減少(0.61、0.36〜1.03) | 中程度 | |
| 下肢傷害全体が19%減少(0.81、0.61〜1.08) | 低い | |
| Corrêa ら, 2026(バレーボール6RCT) | 「メタ分析は、傷害予防への介入の正の効果を示さなかった」 | 低い |
| Edouard ら, 2021(陸上840名・1シーズン) | 少なくとも1回の傷害を訴えた割合は、介入群64.7%、対照群65.0%(オッズ比0.81、0.36〜1.85) | — |
前十字靱帯では61%減り、バレーボールでは効果が示されず、陸上では64.7%対65.0%でほぼ同じ。
この差は、どこから来ているのでしょうか。
陸上の試験が示した、最大の問題
840名を対象に1シーズン追跡したクラスター無作為化比較試験の数字を見ると、答えのひとつが出ています。
「介入群449名と対照群391名が含まれた。そのうち、39週の追跡期間中に要求された情報の100%を提供したのは、それぞれ68名(15.1%)と100名(25.6%)だった。」
「週2回以上プログラムを実施したのは、6名(8.8%)だった。」
著者らの結論は、率直です——「このクラスター無作為化比較試験は、傷害予防プログラムの有効性を認めなかった。しかしながら、全体の回答率と介入群におけるプログラムの遵守率は低かった。とくに個人競技においては、介入の実施と採用を改善することにまず努力を向けるべきである」(Edouard ら, 2021, International Journal of Environmental Research and Public Health)。
効果がなかったのではなく、誰もやっていなかった。
用量が明示されている解析
女性選手に絞った82研究154,561名(うち女性84,915名)の統合は、この点を条件として明記しています。
「下肢のバランス、筋力、敏捷性、方向転換の運動を含み、週2回・最低10分という最小用量の神経筋トレーニング(NMT)プログラムが、女性選手の下肢傷害を19%減らした。」
研究の内訳は神経筋トレーニングが60件(73%)、個人保護具9件(11%)、教育6件(7%)、政策・ルール変更4件(5%)。著者らは「個人保護具、政策・ルール変更、教育について、女性選手の下肢傷害を予防する証拠が必要である」としています(Bullock ら, 2025, British Journal of Sports Medicine)。
25RCT 10,124名を対象にした統合も、同じ方向です。
| アウトカム | 効果 |
|---|---|
| 傷害リスク | リスク比0.73(0.58〜0.91、p = .004) |
| 跳躍 | 0.88(0.58〜1.17、p < .001) |
| スプリント | 0.75(0.44〜1.06、p < .001) |
| 方向転換 | 0.97(0.38〜1.57、p = .001) |
| 動的バランス | 0.91(0.31〜1.51、p = .003) |
効果的な条件として挙げられているのは「成人選手(18歳以上)、女性選手、サッカー選手、高頻度(週3回以上)、長い1回の時間(30分超)」です。ただし著者らは「大半の研究がROB2で『いくつかの懸念がある』に分類された」と明記しています(Jiang ら, 2026, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation)。

「続けてもらう」ための逆転の発想
この領域には、独特の論理があります。5つの系統的レビューを検討したアンブレラレビューが、それを明示しています。
「遵守はプログラムの有効性にとって不可欠であり、これらのプログラムが競技パフォーマンスに正の効果を示すときに促進されうる。」
つまり「傷害が減るから続けてください」では続かない。だから「速くなる、跳べるようになる」ことを示す必要がある——という発想です。
結果は、その狙いを支持しています——「複数の神経筋的な運動構成要素を持つ多要素の傷害予防プログラムは、バランス、敏捷性、跳躍、スピードというパフォーマンス基準に、全体として有益な効果を示す。筋力への効果はより変動が大きいが、傾向は正の方向だった」(Bel ら, 2021, International Journal of Sports Physical Therapy)。
19RCT 783名(11〜25歳)を統合した別の解析も、同じ構造です——跳躍(0.26)、スプリント(−0.76)、バランス(0.23)、敏捷性(−0.72)がいずれも有意に改善。女性選手のほうがスプリントとバランスで男性より改善が大きい。8週未満、1回30分未満、週3回超の介入で効果がより顕著(Chen ら, 2025, Life)。
Bullock らの解析が示した「週2回・10分」と、この「週3回超・30分未満」は、いずれも短くて頻繁という方向で一致しています。
プライオメトリックの効果
個別の手法では、プライオメトリック(跳躍系)トレーニングの証拠が厚くなっています。
| 解析 | 結果 |
|---|---|
| Weerasinghe ら, 2026(陸上30RCT) | 30mスプリント −3.53%(p = .02)、反動跳躍 +5.11%(p = .03)、垂直跳 +2.95%(p = .02)、立ち幅跳 +2.55%(p = .01)、最大酸素摂取量 +3.05%(p = .04)、時速14kmのランニングエコノミー −1.96%(p = .05) |
| Zheng ら, 2025(思春期サッカー20研究28RCT 796名) | 跳躍 0.76(中)、スプリント −0.45(小)、方向転換 −0.76(中) |
Weerasinghe らは、傷害についての証拠の薄さを明記しています——「30研究のうち、プライオメトリックが傷害に与える影響を評価したのは1件のみで、下肢傷害の発生率の有意な減少を報告した」。結論は「予備的な証拠は傷害減少を含む潜在的な便益を示唆するが、確定的な予防効果を確立するには、曝露に基づく頑健な無作為化比較試験が必要である」(Weerasinghe ら, 2026, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation)。
30研究中1研究——パフォーマンスは大量に測られ、傷害はほとんど測られていません。

体幹・ピラティス系の試験
体幹の安定化に焦点を当てた介入も、この文脈で検証されています。
| 試験 | 結果 |
|---|---|
| Erkan ら, 2025(バレー23名・8週) | 機能的動作スクリーニング、非対称性、メディシンボール投げ、上肢安定性、垂直跳、サーブ技術、Yバランス(上肢・下肢)で介入群が有意に優れる(p < .05) |
| Rahimi ら, 2025(女子バレー30名・8週) | 着地エラースコアリングシステム(p = .001)、タックジャンプ総合(p = .02)、靱帯優位(p = .02)、足部優位(p = .03)、体幹優位(p = .001)が改善。大腿四頭筋優位は有意でない(p > .05) |
| Yılmaz ら, 2025(サッカー30名) | リフォーマー群がマット群より、ドイツ式敏捷性、パス技術、片脚三段跳で優れる |
| Demir ら, 2025(膝外反36名・6週) | ピラティス群でドロップジャンプ時の前額面投影角(p = .002)、大腿直筋筋力(p = .006)、姿勢安定性(p = .020)が改善 |
| Greco ら, 2019(女子バレー20名・8週) | 長座体前屈のみ有意(p < .0001、+3.8 cm、d = 0.38)。スクワットジャンプ・反動跳躍の高さとパワーには有意な交互作用なし |
Rahimi らの試験は、着地動作の質を直接測っている点で重要です。着地エラースコアリングシステムは、前十字靱帯損傷リスクの代理指標として使われます。
一方、Greco らの試験は柔軟性だけが改善し、跳躍には効果がなかったと報告しています。同じバレーボール選手を対象にしても、結果は揃いません。
Panihar ら(30名・6週)は全項目で群間に有意差を報告し、Parolini ら(15名・5週)は下肢筋力の有意な増加(p = .001)を報告する一方姿勢には有意な変化なしとしています。Kumar ら(30名・6週)は柔軟性と敏捷性の改善を報告しています。
12〜14歳の男子バレーボール選手40名を12週追跡した試験では、爆発的筋力とサーブ精度、マインドフルネスの状態が4〜7%改善(p < .001)したと報告されています。著者らは「若い選手のトレーニングプログラムにピラティスを組み込むことは、個別の技術の発達と、潜在的には全般的な心身の発達にとって有益でありうる」と述べています(Tafuri ら, 2024, Education Sciences)。
ただし、これらの標本サイズは15〜40名です。
種目どうしを比べると
ピラティスとプライオメトリックを直接比較した30名の研究では、プライオメトリック群でバランスと体力が改善したと報告されています(Paul ら, 2025, International Journal of Medical and Exercise Science)。
ヨガを用いた26名の試験では、柔軟性、バランス、持久力、サーブ精度で介入群が対照(筋力運動)より有意に優れたという結果です(Erkan Özalp ら, 2025, Journal of Sports Medicine and Physical Fitness)。
運動イメージと動作観察を用いた45名の試験では、興味深い結果が出ています——すべての群で群内改善(p < .05、効果量は大)。ただし方向転換能力では従来のプライオメトリックが最も優れた。著者らは「運動イメージ+動作観察に基づくプライオメトリックは、従来のプライオメトリックの代替ではなく、機械的負荷を制限する必要があるときに神経運動的パフォーマンスを支える補完的で負荷効率の良い戦略と思われる」としています(Yazgan ら, 2026, Sports Health)。
バレーボールという例外
冒頭で触れたバレーボールの解析を、詳しく見ます。8つのデータベースから6つのランダム化比較試験が選ばれました。
「メタ分析は、傷害予防への介入の正の効果を示さなかった。ただし1研究が、短期の腰痛に対する半オーダーメイド運動の正の効果を報告した(リスク比0.26、0.08〜0.86)。」
「他のいかなる介入も、筋骨格系傷害の減少における便益を示さなかった。」
「バレーボールにおける予防的介入は質の低い証拠に支えられており、より大きな標本を持つ質の高い試験が緊急に必要である。」
(Corrêa ら, 2026, Fisioterapia e Pesquisa)
サッカーでは効果が確認され、バレーボールでは確認されていない——この差は、研究数の差によるところが大きいと考えられます。Jiang らの解析でも、効果が大きいサブグループとして「サッカー選手」が名指しされています。
いま言えること
- 神経筋トレーニングは、女性選手の前十字靱帯損傷を61%減らす(確実性「高い」)
- 足関節捻挫は39%減少(中程度)、下肢傷害全体は19%減少(低い)
- 25RCT 10,124名の統合でも、傷害リスクがリスク比0.73
- 一方、バレーボールでは効果が示されていない
- 陸上840名の試験では、介入群64.7%対対照群65.0%。ただしプログラムを週2回以上やった人は8.8%だった
- 最小用量は「週2回・10分」。別の解析では「週3回超・1回30分未満」が最も効果的
- 個人保護具、ルール変更、教育については、証拠が不足している
- プライオメトリックの研究30件のうち、傷害を測ったのは1件のみ
- 予防プログラムは、跳躍・スプリント・敏捷性・バランスも改善する。これが遵守を促す理由として明示されている
- ピラティス系の試験は着地動作の質を改善するが、標本は15〜30名
実務的な整理です。
前十字靱帯損傷については、予防できます。61%という数字に「確実性が高い」という評価がついているのは、運動介入の領域では例外的です。
ただし、やらなければ効きません。陸上の試験で差が出なかった最大の理由は、8.8%しか実施していなかったことでした。
だから「短く、頻繁に、練習の一部として」が現実的です。週2〜3回・10〜30分。別メニューではなくウォームアップに組み込む形が、複数の解析で支持されています。
そして、パフォーマンスも上がります。これは副産物ではなく、続けてもらうための重要な根拠として位置づけられています。
ただし競技による差があります。サッカーでは証拠が厚く、バレーボールではまだ確認されていません。
出典
- Bullock G, et al. Prevention strategies for lower extremity injury: a systematic review and meta-analyses for the Female, woman and/or girl Athlete Injury pRevention (FAIR) consensus. British Journal of Sports Medicine. 2025. DOI: 10.1136/bjsports-2025-109910
- Corrêa F, et al. Prevention of musculoskeletal injuries in volleyball athletes: a systematic review of randomized controlled trials. Fisioterapia e Pesquisa. 2026. DOI: 10.1590/1809-2950/e24001426en
- Edouard P, et al. Effect of an Unsupervised Exercises-Based Athletics Injury Prevention Programme on Injury Complaints Leading to Participation Restriction in Athletics: A Cluster-Randomised Controlled Trial. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021. DOI: 10.3390/ijerph182111334
- Jiang T, et al. The effects of integrative neuromuscular training on injury risk and athletic performance in athletes: a systematic review and meta-analysis. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2026. DOI: 10.1186/s13102-026-01549-4
- Bel L, et al. Lower Limb Exercise-Based Injury Prevention Programs Are Effective in Improving Sprint Speed, Jumping, Agility and Balance: an Umbrella Review. International Journal of Sports Physical Therapy. 2021. DOI: 10.26603/001c.29860
- Chen B, et al. The Effect of Integrative Neuromuscular Training on Enhancing Athletic Performance: A Systematic Review and Meta-Analysis. Life. 2025. DOI: 10.3390/life15081183
- Weerasinghe K, et al. Effects of plyometric training on performance-related metrics in track and field athletes: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials, with preliminary evidence on injury prevention. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2026. DOI: 10.1186/s13102-026-01840-4
- Zheng T, et al. Effects of plyometric training on jump, sprint, and change of direction performance in adolescent soccer player: A systematic review with meta-analysis. PLOS One. 2025. DOI: 10.1371/journal.pone.0319548
- Erkan R, et al. Impact of Stabilization Exercises on Athletic Performance and Injury Risk in College Volleyball Players. International Journal of Sports Physiology and Performance. 2025. DOI: 10.1123/ijspp.2024-0348
- Rahimi S, et al. The effect of pilates training on knee functional tests in youth female volleyball player. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2025. DOI: 10.1186/s13102-025-01258-4
- Yılmaz O, et al. Randomised controlled study on the effects of pilates exercises in soccer: Comparing mat and reformer methods on physical and technical performance. PLOS One. 2025. DOI: 10.1371/journal.pone.0324129
- Demir N, et al. Which exercise program improves on postural control and functional alignment in individuals with dynamic knee valgus? Pilates vs neuromuscular exercises. Research in Sports Medicine. 2025. DOI: 10.1080/15438627.2025.2572717
- Greco G, et al. Changes in physical fitness in young female volleyball players after an 8-week in-season Pilates training program. 2019. DOI: 10.19193/0393-6384_2019_6_531
- Panihar U, et al. Efficacy of 6 Weeks Pilates Training on Physical Parameters and Sports-Specific Skills of Volleyball Players: A Randomized Controlled Trial. Sportske Nauke i Zdravlje – APEIRON. 2024. DOI: 10.7251/ssh24v041p
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- Kumar V, et al. Effects of Pilate Mat Exercises on Agility and Flexibility of Athletes – A Pilot Study. International Journal for Multidimensional Research Perspectives. 2024. DOI: 10.61877/ijmrp.v2i7.164
- Tafuri F, et al. Effects of Pilates Training on Physical, Physiological and Psychological Performance in Young/Adolescent Volleyball Players: A Randomized Controlled Trial. Education Sciences. 2024. DOI: 10.3390/educsci14090934
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- Yazgan EA, et al. Motor Imagery and Action Observation-Based Plyometric Training as a Potential Alternative to Traditional Methods in Female Volleyball Players: A Randomized Controlled Trial. Sports Health. 2026. DOI: 10.1177/19417381261438752
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。効果量は集団の平均であり、個人の傷害を防ぐことを保証するものではありません。プライオメトリックなど高い衝撃を伴うトレーニングは、成長期の選手、骨密度の低い方、下肢に既往のある方では負荷の調整が必要です。膝が「抜ける」感覚、腫れ、ロッキング、強い痛みがある場合は、運動を続けず整形外科を受診してください。前十字靱帯損傷後の競技復帰は、専門医と理学療法士の基準に基づいて判断してください。






