連載「スタジオの環境を読む」全10回の第4回です。
見学で聞こえてくる音楽は、「気分の問題」に見えがちです。しかし運動科学では、テンポ・同期・好み・音量を分けて測ってきました。温度と湿度は高温環境の選択基準へ、クラスの人数は人数と監督へ送ります。ここでの軸は、音という物理条件です。
この回では、音楽が運動中のパフォーマンス・主観的運動強度(RPE)・感情価にどう関わるか、そしてフィットネス施設で測られた音圧がどこまで「安全」から外れているかを、メタ分析と一次実験から読みます。
結論を先に書くと、音楽は感情価や一部のパフォーマンスをわずかに押し上げる一方、心拍への効果はほぼなく、速いテンポや同期は自己ペース運動で働きやすい。音量を上げることが強度を保証する根拠は弱く、施設の実測では危険域に入ることがある——これが現時点で最も正確な要約です。

全体像——効果は「ある」が小さく、指標で割れる
まず地図を広げるために、Terry ら(2020)の運動・スポーツ領域の音楽聴取メタ分析(139研究・598効果量・3,599人)を置きます。
有意な有益効果が示されたのは、感情価(affective valence)で Hedges’ g = 0.48(95%信頼区間 0.39〜0.56)、身体パフォーマンスで g = 0.31(0.25〜0.36)、主観的運動強度で g = 0.22(0.14〜0.30)、酸素消費で g = 0.15(0.02〜0.27)でした。一方、心拍数は g = 0.07(95%信頼区間 -0.03〜0.16)で有意な便益は示されませんでした。
統計的有意と臨床的重要性は分けて読む必要があります。慣習的な目安では g = 0.2 前後は「小さい」、0.5 前後は「中程度」です。感情価は中程度に近い一方、RPE の低下は小さい水準にとどまります。酸素消費の信頼区間は下限が 0.02 とほぼゼロに接しており、効果があるとしても薄い。心拍への効果は信頼区間がゼロを跨ぎ、少なくともこの統合では「音楽で心拍が動く」とは言えません。
調整変数として重要なのは、研究領域(運動 > 競技スポーツ)とテンポ(速い > 遅い〜中程度)でした。競技の制約が強い場面より、自己ペースの運動のほうが音楽の余地が大きい——という骨格は、あとの同期実験とも整合します。
テンポを±10%動かすと、何が何%変わるか
テンポそのものを隠し操作した古典的な実験があります。健康な男子学生12人が、同じ6曲のプログラムを、通常・10%速く・10%遅くの3条件で自己選択強度の自転車運動を行いました(約25分)。
Waterhouse J, Hudson P, Edwards B. Effects of music tempo upon submaximal cycling performance. Scand J Med Sci Sports. 2010;20(4):662-669.
結果は非対称でした。テンポを速くすると、単位時間あたり距離が +2.1%、パワーが +3.5%、ペダルケイデンスが +0.7%。遅くすると、距離 -3.8%、パワー -9.8%、ケイデンス -5.9%。心拍数の変化は速いで +0.1%、遅いで -2.2%と小さく、Terry らのメタ分析で心拍効果が弱いことと整合します。
主観側では、RPE は速いで +2.4%、遅いで -3.6%。「音楽がどれだけ好きか」は速いで +1.3%にとどまる一方、遅いで -35.4%と大きく落ちました。遅いテンポは、仕事量を落とすだけでなく、好感度を大きく損なう——パフォーマンスの変化幅より、好みの落ち込みのほうが目立ちます。
ただし n = 12・男性のみ・亜最大・実験室です。効果量の臨床的重要性(たとえば持久力や競技成績の最小重要差)は、この1研究だけでは判定できません。統計的にテンポ操作は動くが、「クラスのBPMを10%上げれば誰でも得をする」までは届きません。

同期——ビートに合わせて動くと何が変わるか
テンポが「背景」なのに対し、同期は「動きをビートに合わせる」条件です。エリート・トライアスリート11人を対象に、自己選択の動機づけ音楽・中立音楽・無音楽でトレッドミル走を比較した研究では、疲労までの時間が動機づけ音楽で18.1%、中立音楽で19.7%、無音楽より長かったと報告されています。
Terry PC, Karageorghis CI, Saha AM, D’Auria S. Effects of synchronous music on treadmill running among elite triathletes. J Sci Med Sport. 2012;15(1):52-57.
気分・感情は動機づけ音楽でより前向き、RPE は中立音楽が最も低く無音楽が最も高く、血中乳酸は動機づけ音楽で最も低かった。両音楽条件でランニングエコノミーが無音楽より良かった、とされています。著者らの解釈は重要で、機能面では動機づけの質より、ビートの明瞭さと同期できる度合いのほうが効いている可能性がある、というものです。中立音楽でも疲労時間がほぼ同程度に延びた点が、その根拠です。
一般の若年成人でも同様の骨格があります。Karageorghis ら(2009)は、平均年齢20.5歳(SD 1.0)の30人が最大心拍予備の75%から歩き始め、動機づけ同期・中立(oudeterous)同期・無音楽で疲労まで歩く条件を比べました。持久時間は両音楽条件で延び、動機づけのほうが中立より大きなエルゴジェニック効果でした(p < .01)。課題中の感情価は動機づけが対照より良好(p < .01)。一方、RPE と運動後の感情状態には有意差がなく(p > .05)、感情状態には中程度の効果量(ηp2 = .09)が記録されたにとどまります。つまり「きついと感じる度合い」は必ずしも下がらず、それでも長く続けられる——主観的きつさと持続時間は一致しない、という像です。
注意点は共通です。いずれも小サンプルのクロスオーバー実験室研究で、盲検は困難(音楽は聞こえる)、追跡は単回セッションです。マットワークや静止姿勢のクラスへ、そのまま「同期すれば長く続く」と外挿する根拠は乏しい。同期可能な反復動作(走・歩・自転車)に限った話として扱うべきです。
好み——「好きな曲」はどこまで効くか
テンポや同期と直交する軸が、好みです。好みの音楽聴取(PML)を、非好み(NPML)・無音楽(NML)と比較したメタ分析(41研究)があります。
Niering M, Zirkel B, Munkelt P, Gellert F, Beurskens R, Seifert J, Glahn A. Effects of preferred music listening on physical and psychological parameters in sports: a systematic review and meta-analysis with meta-regression. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025;18(1):44.
心理指標では、RPE が SMD = -0.36(95%CI -0.65〜-0.08)、動機づけが SMD = 0.85(0.60〜1.10)、感情反応が SMD = 1.16(0.13〜2.20)と PML に有利でした。身体指標では、筋力持久 SMD = 0.72(0.42〜1.01)、最大筋力 SMD = 0.53(0.20〜0.85)、パワー SMD = 0.47(0.12〜0.81)。一方で速度と有酸素持久には優位が示されませんでした。
ここでも統計的有意と実用性を分けます。動機づけや感情反応の点推定は大きい一方、感情反応の信頼区間は下限 0.13 と広く、異質性も高いと著者らは述べています。NPML とのサブグループ比較は一貫せず、「好きでない曲でも無音楽より良い」は、指標によっては弱い。クラス全体に同じプレイリストを流す現場では、誰かの PML が別の誰かの NPML になりうる——好みの効果は個人化の問題でもあります。

有酸素での統合——GRADEで確かさを見る
身体活動者の有酸素運動に絞った別のメタ分析として、Yang ら(2026)は15研究・339人を統合し、確実性評価(GRADE)を明示しています。
| 指標 | 効果量 | 異質性 | GRADE |
|---|---|---|---|
| 固定時間の有酸素パフォーマンス | SMD 0.39(95%CI 0.08〜0.70) | I2 = 30% | low |
| 疲労までの時間 | SMD 1.89(0.44〜3.33) | I2 = 95% | very low |
| RPE | SMD -0.36(-0.67〜-0.04) | I2 = 0% | moderate |
| 血中乳酸 | MD -0.86 mmol/L(-1.45〜-0.26) | I2 = 57% | low |
| 心拍数 | MD -1.16 beats/min(-3.57〜1.26) | I2 = 18% | low(有意差なし) |
最も一貫しているのは RPE の低下で、確実性は中程度。固定時間パフォーマンスは点推定こそ中小だが確実性は低い。疲労時間の点推定は大きい一方、I2 = 95% と異質性が極端で確実性は非常に低い——「音楽で限界が大幅に延びる」を一般化するには材料不足です。心拍は再び信頼区間がゼロを跨ぎます。
バイアスリスク(RoB 2)では、15件中12件が「一部懸念」、3件が高リスクでした。音楽介入は盲検が難しく、出版バイアスも起こりやすい領域です。著者ら自身が、パフォーマンスと生理指標はアウトカム依存で慎重に解釈せよ、と結んでいます。
音量——施設で測られた値と、下げても強度は落ちるか
テンポや好みの話とは別に、フィットネス施設の音圧そのものが測られてきました。1997-1998年と2009-2011年の低強度35クラス・高強度65クラスを比較した研究では、水準は両時期で似ており、しばしば 90 dB(A) を超えたと報告されています。
Beach EF, Nie V. Noise levels in fitness classes are still too high: evidence from 1997-1998 and 2009-2011. Arch Environ Occup Health. 2014;69(4):223-230.
低強度クラスの平均は 88.9 から 85.6 dB(A) へ下がった一方、高強度は平均 93.1 dB(A) のまま高止まりでした。指導者の約85%が大音量を「動機づけになる」と感じる一方、利用者の約5人に1人は「ストレス」と感じていました。2009-2011年では、高強度クラスで指導者が利用者より有意に高い音量を好む、というずれも出ています。「動機づけのために必要」という現場の通説と、利用者の感覚は一致しない例です。
では音量を下げると、参加者は「追い込めなくなった」と感じるのでしょうか。グループ・スピン18クラス・質問票213件の観察研究は、2週目に音量を 3 dB 下げて好みと自覚強度を調べました。
Lee L, Shuster B, Song Y, Kujawa SG, Depireux D, Hertzano R. Music level preference and perceived exercise intensity in group spin classes. Noise Health. 2021;23(108):42-49.
平均音圧が 98.4 dBC を超えると、回答者は「小さすぎる」より「大きすぎる」と答えるオッズが23倍(P < 0.05)、音量を上げたいより下げたいが4倍(P < 0.05)でした。一方、中位ターシル(95.7〜98.1 dBC)と上位(98.4〜101.0 dBC)で「高強度だった」と答えた割合は 67.1% 対 71.8% で有意差なし(P = 0.53)。全体の 25.9% がクラス後に聴覚症状を申告しました。著者らの結論は明快で、音量は下げても自覚運動強度に有意な影響はなく、多くの参加者は現状より低い音量を好む、というものです。
統計的有意なのは「うるさいと感じる/下げたい」側であり、「音量が大きいほど高強度に感じる」側ではありません。臨床的・公衆衛生的には、25.9% の聴覚症状と 90 dB(A) 超の曝露のほうが、パフォーマンス議論より先に来る問題です。有害事象として、騒音性難聴リスクは Beach らが指摘し、Lee らも聴覚症状の申告率を報告しています。ただし両研究とも聴力の長期追跡や診断確定までは行っていません。
効果が小さい・示されていない領域と研究の限界
効果が示されていない、または小さい領域をまとめます。第一に心拍数——Terry 2020 も Yang 2026 も有意差なし。第二に速度と有酸素持久への「好み」の優位——Niering 2025 では示されず。第三に高強度を超えたあとのRPE低下——古典的レビューでも、無酸素閾値を超えると知覚を下げる効果は弱いと整理されてきました(本連載ではメタ分析の数値を優先し、閾値そのものの再検証は割愛)。第四に音量と自覚強度の連動——Lee 2021 で上位・中位ターシルに有意差なし。
研究の限界も列挙します。サンプルは実験室の十数人〜数十人が多く、集団クラスの無作為化は稀です。盲検は音楽介入ではほぼ不可能で、プラセボ対照も設計しにくい。追跡期間は単回セッションが多く、週単位の継続やケガ率までは見ていません。出版バイアスは「効いた」研究が出やすい領域です。Yang らの RoB 2 で高リスクが3件あったことも、確実性を下げます。ヨガやピラティスのような、同期しにくい・静かな指導が重要な種目では、走・自転車の知見をそのまま当てはめられない——研究が乏しい、と書くのが正直です。
また、音楽が「動きの質」や「フォームの学習」を良くするかは、今回扱った文献の主アウトカムではありません。長く・楽しく・やや強く動ける、という方向の証拠はあっても、技術習得やケガ予防に効くかは未検証です。音量が指導者の声を覆い、修正の聞き取りを妨げる可能性も、直感的には重要ですが、クラス内の可聴性をアウトカムにした比較試験は今回の検索では十分に集まりませんでした。
この回から言える判断材料
- 音楽の平均効果は小さい〜中程度。 Terry らでは感情価 g = 0.48、パフォーマンス g = 0.31、RPE g = 0.22。心拍は有意でない。
- テンポは自己ペースを動かすが非対称。 Waterhouse らでは +10% でパワー +3.5%、-10% でパワー -9.8%。好感度は遅い条件で -35.4%。
- 同期は持久を延ばしうる。 エリート走で疲労時間 +18.1% / +19.7%。ただし n は小さく、マットワークへの外挿は弱い。
- 好みは心理と筋力系に効きやすい。 Niering らで動機づけ SMD 0.85、筋力持久 0.72。速度・有酸素持久には優位なし。
- 有酸素の最も確かな便益はRPE低下。 Yang らで GRADE 中程度。疲労時間の大きな点推定は確実性 very low。
- 音量を上げることが強度を保証しない。 Lee らで上位・中位の自覚高強度に差なし(P = 0.53)。施設音圧は 90 dB(A) 超が珍しくなく、25.9% が聴覚症状を申告。
次回予告
第5回は「鏡——視覚フィードバックは学習を助けるのか」を扱う。鏡面の有無や自己観察がフォーム学習・身体イメージ・注意の向きにどう関わるかを、運動学習とスポーツ心理学の実測から読みます。見えれば直る、という直感がどこまで持つかを検討します。
この連載の全10回
- 第1回|空気——換気とCO2、運動施設で実際に測られた値
- 第2回|床——衝撃吸収と滑り、素材で何が変わるか
- 第3回|衛生——共用マットと器具の微生物
- 第4回|音——音楽のテンポと音量は動きを変えるか(この記事)
- 第5回|鏡——視覚フィードバックは学習を助けるのか
- 第6回|照明と時間帯——概日リズムと運動の相互作用
- 第7回|混雑と個人空間——密度は行動を変えるか
- 第8回|香り——アロマの主張をどこまで裏づけられるか
- 第9回|設備の安全——器具の保守と事故の実測
- 第10回|総括——見学のチェックリストを研究から作る
出典
- Terry PC, Karageorghis CI, Curran ML, Martin OV, Parsons-Smith RL. Effects of music in exercise and sport: A meta-analytic review. Psychol Bull. 2020;146(2):91-117.
- Waterhouse J, Hudson P, Edwards B. Effects of music tempo upon submaximal cycling performance. Scand J Med Sci Sports. 2010;20(4):662-669.
- Terry PC, Karageorghis CI, Saha AM, D’Auria S. Effects of synchronous music on treadmill running among elite triathletes. J Sci Med Sport. 2012;15(1):52-57.
- Karageorghis CI, Mouzourides DA, Priest DL, Sasso TA, Morrish DJ, Walley CJ. Psychophysical and ergogenic effects of synchronous music during treadmill walking. J Sport Exerc Psychol. 2009;31(1):18-36.
- Beach EF, Nie V. Noise levels in fitness classes are still too high: evidence from 1997-1998 and 2009-2011. Arch Environ Occup Health. 2014;69(4):223-230.
- Lee L, Shuster B, Song Y, Kujawa SG, Depireux D, Hertzano R. Music level preference and perceived exercise intensity in group spin classes. Noise Health. 2021;23(108):42-49.
- Niering M, Zirkel B, Munkelt P, Gellert F, Beurskens R, Seifert J, Glahn A. Effects of preferred music listening on physical and psychological parameters in sports: a systematic review and meta-analysis with meta-regression. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025;18(1):44.
- Yang L, Zhao B, Teng X, Chen Z, Qiu D. Effects of listening to music during aerobic exercise on performance, fatigue, and psychological responses in physically active adults: a systematic review and meta-analysis. Front Sports Act Living. 2026;8:1860752.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。ここで扱った効果量は集団の平均であり、特定の音環境が個人に適することを保証するものではありません。耳鳴り・聴力低下・耳閉塞感が続く場合、持病や服薬がある場合、関節や心肺に不安がある場合は、音量や運動強度を自己判断で変えず、医療機関にご相談ください。






