連載「回復の科学」全10回の第3回です。
第2回では睡眠不足が筋力と筋肥大に与える影響を見ました。回復のもう一つの柱が栄養、とりわけタンパク質です。「1日あたりの総量を稼げば配分は二の次」「一食は20 gまで」「就寝前が効く」——現場ではこうした言い方が並びますが、どれが一次文献で支えられているのでしょうか。
結論を先に書きます。長期の筋肥大・筋力向上では、一日の総タンパク量が配分パターンより強く効く一方、急性の筋タンパク合成では均等な配分や就寝前摂取が有利になりうる。ただし配分の長期効果は研究間で結論が割れており、総量をそろえたうえで配分だけを独立に効かせた証拠はまだ薄い——これが現時点での要約です。
運動直後30分以内の摂取タイミングは、アナボリック・ウィンドウの通説として別連載で扱いました。本回はセッションとセッションのあいだ——総量と、1日のなかでの配分——に焦点を当てます。

総量——一日にどれだけ足すと伸びるか
Morton RW, Murphy KT, McKellar SR, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. British Journal of Sports Medicine. 2018;52(6):376-384.
レジスタンストレーニングを6週間以上行ったランダム化比較試験49件・参加者1,863名をまとめた統合では、タンパク補給は筋力(1RM)の変化を平均2.49 kg(95%CI 0.64〜4.33)、除脂肪体重を0.30 kg(0.09〜0.52)、筋線維断面積を310 µm²(51〜570)、大腿中央断面積を7.2 mm²(0.20〜14.30)だけ、対照より大きく伸ばしました(いずれも p<0.05)。
ここで効果量の読み分けが必要です。統計的に有意でも、除脂肪体重の差0.30 kgは実務上の実感としては小さいです。信頼区間の下限は0.09 kgまで下がるため、「補給すれば誰でもはっきり増える」とは言えません。一方、訓練経験者に限ると除脂肪体重の差は0.75 kg(0.09〜1.40)と大きくなり、年齢が上がるほど効果は小さくなります(共変量 -0.01 kg、p=0.002)。確実性は中程度——試験の異質性が大きく、盲検や食事記録の精度も研究間でばらつく、という評価が妥当です。
メタ回帰の折れ点解析では、総タンパク摂取が約1.62 g/kg/日を超えると、それ以上の補給がレジスタンストレーニングによる除脂肪体重の増加に寄与しなかったと報告されています。実務の目安として「およそ1.6 g/kg/日」と書かれる根拠がこれです。ただしこれは「平均的な健康成人の統合」であり、減量期・高齢者・超高ボリューム期への外挿は別問題です。セッション内の休息や分割は、インターバルや頻度と分割の記事側に譲ります。
一食の用量——20 gで頭打ちか
Moore ら(2009)は若年男性6名が、脚のレジスタンストレーニング後に全卵タンパク0・5・10・20・40 gを交差して摂取した試験で、筋タンパク合成(MPS)は20 gで最大となり、アルブミン合成も20 gで頭打ちだと報告しました。ロイシン酸化は20 gと40 gのあとで有意に増えました。「余分は合成に回らず酸化される」という古典的な読みの出発点が、この用量反応です。
Witard ら(2014)は訓練経験のある若年男性48名(およそ80 kg)で、ホエイ0 gのときの筋原線維MPSは0.041 ± 0.015%/h、20 gで49%、40 gで56%上昇したと報告しています(いずれも P < 0.05)。10 gでは追加刺激は見られず(P > 0.05)、40 gではフェニルアラニン酸化と尿素産生が増えました。著者らは20 gで最大刺激に足り、20 g超はアミノ酸酸化と尿素産生を刺激すると結論しています。
ただし限界ははっきりしています。対象は若年の訓練者、タンパク源は速い消化の単体タンパク、測定窓は運動後およそ4時間です。食事全体(脂肪・炭水化物を含む)や高齢者では、頭打ちの位置がずれる可能性があります。急性の合成速度が上がったことと、数か月後の筋肥大が同じ大きさになることも、自動では結びつきません。

分配——同じ総量でも配分で合成が変わるか
Areta JL, Burke LM, Ross ML, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. Journal of Physiology. 2013;591(9):2319-2331.
訓練された男性24名(各群8名)が、レジスタンストレーニング後12時間にホエイ計80 gを、(1) 10 gを1.5時間ごと×8(PULSE)、(2) 20 gを3時間ごと×4(INT)、(3) 40 gを6時間ごと×2(BOLUS)で摂取しました。どの型も安静時よりMPSを88〜148%押し上げましたが(P < 0.02)、INTはPULSE・BOLUSより31〜48%高い合成を示しました(P < 0.02)。同じ80 gでも、「20 gを3時間おき」が12時間の合成を最も高く保った、という結果です。
Mamerow MM, Mettler JA, English KL, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. Journal of Nutrition. 2014;144(6):876-880.
成人8名(36.9 ± 3.1歳)の7日間交差試験では、総タンパクをそろえたうえで、均等配分(朝31.5・昼29.9・夕32.7 g)と偏り配分(朝10.7・昼16.0・夕63.4 g)を比べました。24時間の混合筋タンパク合成速度は、均等側が0.075 ± 0.006%/h、偏り側が0.056 ± 0.006%/hで、均等側が25%高くなりました(P = 0.003)。7日目も同様(0.077 ± 0.006 vs 0.056 ± 0.006%/h、P = 0.001)でした。
ここでも臨床的重要性を分けます。合成速度の25%差は統計的に明瞭ですが、標本は8名の小規模交差で、信頼区間は広く、筋肥大そのものは測っていません。急性・亜急性の合成指標では配分が効く、という証拠は比較的強い一方、それが長期の断面積増加にどれだけ翻訳されるかは別の問いです。
長期の筋肥大では配分はどう見えるか
Yasuda J, Tomita T, Arimitsu T, Fujita S. Evenly distributed protein intake over 3 meals augments resistance exercise-induced muscle hypertrophy in healthy young men. Journal of Nutrition. 2020;150(7):1845-1851.
若年男性26名を12週間追跡した試験では、一日の総タンパクをどちらも1.30 g/kg体重/日にそろえ、朝食を厚くする群(HBR、朝食0.33・昼0.46・夕0.48 g/kg)と、典型的に夕食へ寄せる群(LBR、朝食0.12・昼0.45・夕0.83 g/kg)を比べました。監督下のレジスタンストレーニングは週3回(75〜80%1RM、3セット×10回)です。除脂肪軟部組織量の増加はHBRで2.5 ± 0.3 kg、LBRで1.8 ± 0.3 kgで、群間は P = 0.06、効果量 Cohen d = 0.795 でした。
「有意水準0.05をまたいだ」点は重要です。差の方向は均等寄りの朝食側に傾き、効果量は大きい一方、統計的有意には届いていません。標本は26名と小さく、盲検も難しく、食事の自己申告誤差も残りえます。出版バイアスの向きも読みにくく、「朝食を厚くすれば必ず肥大する」とは言えません。
Hudson ら(2020)の総説は、配分概念のエビデンスを横断して「限定的で一貫しない」と評しています。配分の効果を総量の効果から十分に分離できていない、とも指摘します。総量が乏しい人(<0.80 g/kg/日)では均等配分が総量を押し上げる実用的な道になりうる一方、すでに0.8〜1.3 g/kg/日を摂っている成人では、一日のなかで少なくとも一食がMPSを最大刺激できる量を含むことのほうが、配分の均等さそのものより支持される、というのが著者らの整理です。急性試験(Areta・Mamerow)と長期試験・総説のあいだで、結論が割れている、と書くのが正直です。

就寝前タンパク——夜間の空白を埋めるか
Res PT, Groen B, Pennings B, et al. Protein ingestion before sleep improves postexercise overnight recovery. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2012;44(8):1560-1569.
若年男性16名が夕方にレジスタンストレーニングを行い、運動直後にタンパク20 gと炭水化物60 gを摂取したうえで、就寝30分前にカゼイン40 gまたはプラセボを飲みました。夜の7.5時間で、全身タンパク合成は311 ± 8 vs 246 ± 9 µmol/kg、純バランスは61 ± 5 vs -11 ± 6 µmol/kg(いずれも P < 0.01)でした。混合筋タンパク合成はタンパク側が約22%高く(0.059 ± 0.005 vs 0.048 ± 0.004%/h)、P = 0.05 で境界的でした。就寝前のタンパクは消化吸収され、夜間の合成と純バランスを改善しうる、というのがこの急性試験の要点です。
Snijders ら(2015)は若年男性44名に12週間のレジスタンストレーニングを行い、就寝前にタンパク27.5 g・炭水化物15 g・脂肪0.1 gの飲料、または非カロリーのプラセボを与えました。筋力増加は+164 ± 11 kg vs +130 ± 9 kg(P < 0.001)、大腿四頭筋断面積は+8.4 ± 1.1 cm² vs +4.8 ± 0.8 cm²(P < 0.05)、II型線維サイズは+2319 ± 368 vs +1017 ± 353 µm²(P < 0.05)で、就寝前群が上回りました。
ただしこの長期試験は、就寝前という「タイミング」と、一日の総タンパクが増えることとを分離していません。プラセボは非カロリーなので、差の一部は総量の増加で説明できます。急性試験で夜間合成が動くことと、タイミング自体が長期適応の独立因子であることとは、まだ同じ強さでは言えません。女性・高齢者・すでに総量が高い人での再現も、データが薄い領域です。
効果が小さい領域・害・研究の限界
効果が示されにくい、あるいは小さい領域を明示します。総量がすでに約1.6 g/kg/日を超えている場合、さらなる補給の除脂肪体重への上乗せは Morton らの統合では見えませんでした。一食を20 gから40 gへ増やしても、Witard らの急性MPSの追加分は小さく(49% vs 56%)、酸化の増加が目立ちます。配分については、総量を十分に摂っている人で均等配分だけを操作しても、長期の筋関連指標が必ず改善する、とは Hudson らの総説は認めていません。
有害事象について、健常者の高タンパク摂取は多くの短期〜中期試験で重大な有害を示しにくい一方、既存の腎疾患・肝疾患がある人ではタンパク負荷の扱いが変わります。胃腸の不快感、過剰なカロリー、サプリメントの添加物への反応は現場で起きえます。本記事は治療を断定しません。疾患のある方は医療機関での個別判断が先です。
研究の限界をまとめます。急性トレーサー試験は標本が数名〜数十名で、測定窓が数時間に限られます。長期試験も12週間前後が多く、追跡が短いです。食事介入の盲検は難しく、自己申告の摂取量には誤差が乗ります。出版バイアスについては、「配分が効いた」「就寝前が効いた」という新規性のある結果が発表されやすく、総量をそろえたうえで差が出なかった試験が埋もれやすい可能性があります。対象は若年男性に偏り、女性・中高年・競技者の層別は不足しています。確実性評価を一文で書けば、総量の重要性は中〜高、急性の配分効果は中、長期の配分独立効果と就寝前タイミングの独立効果は低〜中、といった段階になります。
いま言えること
- 長期の筋力・除脂肪体重では、一日の総タンパク(目安としておよそ1.6 g/kg/日前後)が主因であり、それを超える補給の上乗せは平均では小さい。
- 急性のMPSでは、一食あたりおよそ20 gの高品質タンパクで頭打ちに近づく報告が多い。ただし食事全体・年齢でずれる。
- 同じ総量でも、均等寄りの配分は急性・24時間の合成を高めうる。長期肥大への翻訳は、有意に届かない試験や「証拠は一貫しない」とする総説があり、結論は割れている。
- 就寝前タンパクは夜間の合成と純バランスを改善しうる。長期の上乗せは総量増と交絡しやすく、タイミング単独の効果はまだ切り分け不足。
- 実務ではまず総量を確保し、そのうえで朝食の極端な低タンパクや深夜の長い空白を避ける、という順序が、現時点の証拠の厚みと整合する。
超回復の古典的な物語は第1回の通説検証に譲ります。回復の本体は指標ごとに時計が違う、という整理は本連載の第1回にあります。
次回予告
第4回は「休息日——間隔の置き方と連続実施」を扱う。連日実施と間隔を空けた実施で、筋力・肥大・損傷マーカーがどう違うのかを、一次文献の数値に沿って見ます。
この連載の全10回
- 第1回|「回復した」とは何を指すのか——指標の整理
- 第2回|睡眠不足は筋力と筋肥大を削るのか
- 第3回|栄養——総量と分配、どちらが効くのか(この記事)
- 第4回|休息日——間隔の置き方と連続実施
- 第5回|軽く動くと回復は早まるのか
- 第6回|冷却——アイスバスは適応を妨げるのか
- 第7回|熱——サウナ・温浴・血流の操作
- 第8回|徒手とフォームローリング——何が動いているのか
- 第9回|ストレッチ——回復手段としての検証
- 第10回|過剰と不足——オーバーリーチングの見分け方と総括
出典
- Morton RW, Murphy KT, McKellar SR, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. British Journal of Sports Medicine. 2018;52(6):376-384.
- Moore DR, Robinson MJ, Fry JL, et al. Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. American Journal of Clinical Nutrition. 2009;89(1):161-168.
- Witard OC, Jackman SR, Breen L, et al. Myofibrillar muscle protein synthesis rates subsequent to a meal in response to increasing doses of whey protein at rest and after resistance exercise. American Journal of Clinical Nutrition. 2014;99(1):86-95.
- Areta JL, Burke LM, Ross ML, et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. Journal of Physiology. 2013;591(9):2319-2331.
- Mamerow MM, Mettler JA, English KL, et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. Journal of Nutrition. 2014;144(6):876-880.
- Res PT, Groen B, Pennings B, et al. Protein ingestion before sleep improves postexercise overnight recovery. Medicine and Science in Sports and Exercise. 2012;44(8):1560-1569.
- Snijders T, Res PT, Smeets JS, et al. Protein ingestion before sleep increases muscle mass and strength gains during prolonged resistance-type exercise training in healthy young men. Journal of Nutrition. 2015;145(6):1178-1184.
- Yasuda J, Tomita T, Arimitsu T, Fujita S. Evenly distributed protein intake over 3 meals augments resistance exercise-induced muscle hypertrophy in healthy young men. Journal of Nutrition. 2020;150(7):1845-1851.
- Hudson JL, Iii REB, Campbell WW. Protein distribution and muscle-related outcomes: Does the evidence support the concept? Nutrients. 2020;12(5):1441.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。腎疾患・肝疾患・消化器疾患、摂食に関する既往がある方、特定の食事制限下にある方は、タンパク摂取量やサプリメントの変更の前に医療機関にご相談ください。






