連載「回復の科学」全10回の第2回です。
第1回では、「回復した」を筋機能・主観・自律神経・血液マーカーに分けて読む必要がある、と整理しました。今回は、セッションとセッションのあいだで最も長く続く回復過程——睡眠——が、筋力と筋量の維持・獲得にどこまで関わるかを一次文献で見ます。セッション内のセット間休息はインターバルと動作速度の記事に譲ります。
「よく眠れないと筋肉がつかない」「一夜でも徹夜すれば翌日のスクワットは落ちる」。現場ではどちらもよく聞きます。しかし研究が扱うのは、一夜の完全な不眠(sleep deprivation)と、複数夜にわたる睡眠時間の短縮(sleep restriction)で、結論は同じではありません。
結論を先に書きます。一夜の完全な不眠では最大筋力や爆発的トルクが保たれる報告が多く、連夜の睡眠短縮では多関節の力発揮や筋タンパク合成が落ちやすい。睡眠を延ばすと競技特異的な成績が上がる報告はあるが、対照群のない小標本が多く、筋肥大そのものを測った長期試験は乏しい——これが現時点での要約です。

問いを分ける——徹夜と短縮は別物
睡眠と筋力の文献を読むとき、まず介入の型を揃える必要があります。完全に眠らない一夜と、毎晩5時間前後に削る数日間では、神経筋の負担もホルモン応答も違います。さらに、翌朝の最大挙上重量を見る急性試験と、数週間の筋断面積やタンパク合成を見る試験では、答えの単位が違います。
Knowles OE, Drinkwater EJ, Urwin CS, Lamon S, Aisbett B. Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018;21(9):959-968.
Knowles らは、不十分な睡眠とレジスタンストレーニング成績を扱った17件を系統的に整理しました。全体の質は「中等度」または「弱い」と評価されています。要約ははっきりしています。完全な不眠は、レジスタンストレーニング中の筋力への影響が小さい。一方、連夜の睡眠短縮は、多関節の力発揮を下げうるが、単関節ではその限りではない。ホルモン応答は研究間で一致しませんでした。
ここで統計と実務を分けます。「影響が小さい」は、差がゼロと証明されたという意味ではありません。標本が小さく、動機づけやカフェイン、集団での実施といった交絡が入りやすい領域です。著者ら自身も、動機づけを補う介入(集団での訓練やカフェインなど)を想定した留保を付けています。一夜の徹夜で「筋力が必ず落ちる」という強い主張は、この統合では支えられません。
アスリートを対象にした総説でも、結論は割れたままです。Fullagar ら(2015)は、睡眠不足が運動成績を下げる報告は多い一方、最大努力や粗大な運動は保たれることがある、と整理しています。競技特異的な課題では低下が出やすい一方、生理応答の解釈も一様ではなく、睡眠の質・量の低下が自律神経の偏りや炎症性サイトカインの上昇と結びつく可能性が指摘されています。認知課題では反応が遅く・不正確になる報告が目立ちます。「筋力そのもの」と「競技の判断・技能」は、睡眠不足の感度が違う、という読み方が妥当です。
急性——連夜の短縮で等尺性筋力は落ちうる
一夜の完全な不眠では保たれやすい最大努力が、数夜の短縮ではどうなるか。比較的新しい実験が、大腿四頭筋の最大随意等尺性収縮(MVIC)を測っています。
Sigrist S, Abel MG, Best SA, Bollinger LM. Sleep restriction reduces voluntary isometric quadriceps strength through reduced neuromuscular efficiency, not impaired contractile performance. European Journal of Applied Physiology. 2024;124(11):3351-3363.
健康な男女18名(各9名・年齢23.8 ± 2.8歳)が、十分な睡眠(SA、1夜7〜9時間)を3日、睡眠短縮(SR、1夜5時間)を3日、洗い出し(WO、7日)を経るデザインです。MVICはSAで227.9 ± 76.6 Nm、WOで228.19 ± 62.9 Nmに対し、SR後は209.9 ± 73.9 Nmと低下しました(p = 0.006)。低下率は男性で約9.8%、女性で約4.8%と性差が出ています。
重要なのは、何が落ちなかったかです。等速性のピークトルクには睡眠条件の有意な効果がなく、電気刺激で測る単収縮トルクにも睡眠の有意な効果は見られませんでした。随意賦活率(ITT)もSA 81.8 ± 13.1%、SR 84.4 ± 12.6%、WO 84.9 ± 12.6%で、条件間差は有意ではありませんでした(p = 0.093)。著者らは、収縮装置そのものより、高トルク域での神経筋効率の変化が等尺性筋力低下の説明になりうると述べています。
統計的有意差はありますが、標本は18名、追跡は数日です。信頼区間つきの標準化効果量は抄録に示されておらず、臨床的重要性(たとえば競技成績や傷害リスクの変化)への外挿は慎重であるべきです。「3夜で大腿四頭筋の等尺性が下がる」ことは示されたが、「すべての種目の1RMが同程度落ちる」とまでは言えません。等速性で差が出なかった点は、効果が課題依存であることの示唆でもあります。

筋タンパク合成——短縮で下がるが運動で相殺されうる
筋力の瞬間値とは別に、筋量の維持に近い指標として、筋原線維タンパク合成(MyoPS)があります。
Saner NJ, Lee MJ, Pitchford NW, et al. The effect of sleep restriction, with or without high-intensity interval exercise, on myofibrillar protein synthesis in healthy young men. The Journal of Physiology. 2020;598(8):1523-1536.
健康な若年男性24名を、通常睡眠(NS、毎夜8時間の就床)、睡眠短縮(SR、毎夜4時間)、睡眠短縮+高強度インターバル運動(SR+EX)の3群に割り付け、介入は5夜でした。食事のタンパクは体重1 kgあたり1日1.5 gにそろえています。MyoPS(1日あたりの分画合成率、平均 ± SD)は、SRで1.24 ± 0.21、NSで1.53 ± 0.09、SR+EXで1.61 ± 0.14でした。SRはNSより低く(差 −0.29 ± 0.09、95%CI −0.50〜−0.09、P = 0.004)、SR+EXとも差があり(−0.37 ± 0.09、95%CI −0.58〜−0.17、P < 0.001)、NSとSR+EXの差は有意ではありませんでした(0.08 ± 0.06、95%CI −0.29〜0.12、P = 0.95)。著者らはSR群のMyoPSがおおよそ19%低いと要約しています。
一方、合成・分解の代表的な分子マーカー(p-AKTser473やp-mTORser2448など)には群間で検出可能な変化がなく、合成率とシグナル指標が乖離しました。期間も短く、筋断面積の変化は検出できない長さだ、と著者らも述べています。統計的に明確な低下(信頼区間が0を含まない)がある一方、それが数週間後の筋肥大差に直結するかは、この試験だけでは言えません。また運動条件は高強度インターバルであり、レジスタンストレーニングそのものの長期適応を測ったわけではありません。
減量中の除脂肪体重——睡眠が短いと落ちやすい
エネルギー制限下では、睡眠時間が体組成の内訳を変える可能性があります。
Nedeltcheva AV, Kilkus JM, Imperial J, Schoeller DA, Penev PD. Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity. Annals of Internal Medicine. 2010;153(7):435-441.
過体重の非喫煙成人10名(女性3・男性7、年齢41 ± 5歳、BMI 27.4 ± 2.0)が、中等度のエネルギー制限下で、就床機会8.5時間と5.5時間を14日間ずつ交差して受けました。脂肪として落ちた量は、8.5時間条件で1.4 kg、5.5時間条件で0.6 kg(P = 0.043)で、脂肪減少の割合は55%減りました。除脂肪体重の減少は1.5 kg対2.4 kg(P = 0.002)で、60%増えています。
これは筋力トレーニング中の筋肥大試験ではありません。減量期に睡眠が短いと、落とした体重のうち脂肪の比率が下がり、除脂肪の比率が上がる、という観察です。標本は10名、期間は14日で、盲検は困難です。出版バイアスの定量もこの規模では難しく、確実性は中程度以下と見るのが妥当です。「睡眠不足で筋肉が必ず減る」ではなく、「エネルギー不足と組み合わさると、除脂肪を守りにくい」と読むのが原典に近いです。栄養の総量と分配は第3回で扱います。

テストステロン——下がるが、筋力成績の代理にはならない
睡眠短縮と同化ホルモンの関係も、よく話題になります。
Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
若年健康男性10名が、自宅で1週間の8時間就床のあと、実験室で8夜の5時間就床(0:30〜5:30)を受けました。総睡眠時間は8時間55分(SD 35分)から4時間48分(SD 6分)へ減りました。覚醒時間帯(8〜22時)のテストステロンは、短縮後16.5 ± 2.8 nmol/L、十分な睡眠時18.4 ± 3.8 nmol/Lで低下しました(P = 0.049)。14〜22時に限ると15.5 ± 3.1対17.9 ± 4.0 nmol/L(P = 0.02)。著者らは日中の低下を10〜15%と要約し、コルチゾールの日内プロファイルは両条件で類似していたと述べています。
Knowles らの系統的整理でも、レジスタンストレーニングに伴うホルモン応答は研究間で一致しませんでした。テストステロンが数パーセント下がったことと、翌週の1RMや筋肥大が同程度損なわれることは、同一ではありません。統計的有意差(P = 0.049)は境界に近く、標本は10名の便宜サンプルです。臨床的重要性(性機能・筋量・競技成績)への外挿は、この研究レター単体では弱いです。睡眠時無呼吸など疾患としての睡眠障害は別問題で、診断や治療の話は本稿の範囲外です。
睡眠延長——競技技能は上がりうるが筋肥大データは乏しい
不足の話ばかりだと、「では余分に眠れば筋肉は増えるのか」という問いに答えられません。実際に測られているのは、主に競技特異的な成績です。
Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011;34(7):943-950.
大学男子バスケットボール部員11名(年齢19.4 ± 1.4歳)が、2〜4週のベースラインのあと、5〜7週の睡眠延長(毎夜できるだけ長く、最低でも就床10時間を目標)を行いました。客観的な夜間睡眠は平均110.9 ± 79.7分増えました(P < 0.001)。タイムドスプリントは16.2 ± 0.61秒から15.5 ± 0.54秒へ短縮し(P < 0.001)、フリースローは9%、3ポイントは9.2%向上しました(いずれも P < 0.001)。
限界は明確です。対照群がなく、プラセボ効果や練習の積み重ね、季節要因を分離できません。標本は11名で、筋力や筋断面積は主アウトカムではありません。睡眠延長がバスケットの技能指標を改善したことは示されたが、「筋肥大が加速する」証拠にはなりません。Fullagar らが指摘するように、睡眠と競技成績の関係は依然として不確実性が大きく、最大努力が保たれる報告と競技特異的低下が混在します。睡眠延長の筋肥大試験は、本稿で確認した範囲では乏しく、効果の大きさも信頼区間つきの統合は揃っていません。
適応——同じ筋トレでも転写応答が変わりうる
長期の筋力・筋肥大そのものを、睡眠短縮下で測ったランダム化試験は多くありません。代わりに、筋肉の転写応答を見た研究があります。
Knowles ら(2024)は、レジスタンストレーニング経験のある若年女性10名(18〜35歳)を対象に、9夜の睡眠短縮(就床5時間)と通常睡眠(就床7時間以上)を、最低6週の洗い出しを挟んで交差させました。各条件でレジスタンス運動を4回(3・5・7・9日目)行い、3日目と9日目に生検しました。睡眠短縮単独(運動と独立)では、3夜でも9夜でも筋トランスクリプトームに効果は見られませんでした。一方、レジスタンス運動を3回終えた48時間後には、約3,000の転写産物が差次的に調節され(偽発見率 < 0.05)、両条件で共通だったのは、低下した遺伝子の39%、上昇した遺伝子の18%にとどまりました。著者らは、睡眠が足りない状態での運動は、十分に休めたときと同じ適応応答を提供しない可能性がある、と述べています。
これは表現型(筋力・筋断面積)の差を直接示したものではありません。標本は10名、女性のみ、期間は9夜です。転写の重なりが小さいことは、適応が変わる「可能性」を示すにとどまり、筋肥大が必ず損なわれる証拠ではありません。超回復の通説の出自は別連載の第1回で扱っており、本連載は休み方の検証に焦点を置きます。頻度と分割は既存記事へ送ります。
現在どこまで言えるか
- 一夜の完全な不眠では、レジスタンストレーニング中の筋力が大きく落ちない報告が多く、連夜の短縮では多関節の力発揮が下がる、という整理がある(Knowles 2018)。質は中等度〜弱く、確実性は高くない。
- 3夜の5時間睡眠では、大腿四頭筋の等尺性最大力が下がりうるが、等速性ピークや単収縮は保たれうる(Sigrist 2024)。効果は課題依存で、臨床的重要性は未確定。
- 5夜の4時間就床でMyoPSが約19%低下し、信頼区間は0を含まない。高強度インターバルを挟むと通常睡眠群と同程度に戻る(Saner 2020)。筋肥大の長期差は未測定。
- 減量中は、短い睡眠で脂肪減少が減り、除脂肪減少が増える(Nedeltcheva 2010)。トレーニング適応試験ではない。
- 睡眠延長で競技技能が上がる報告はあるが、対照群のない小標本が多く、筋肥大への効果は研究が乏しい(Mah 2011; Fullagar 2015)。
- 睡眠短縮下のレジスタンス運動は、転写応答の重なりが通常睡眠と大きくずれる可能性がある(Knowles 2024)。表現型への外挿は慎重に。
効果が小さい・示されていない領域も明記します。単関節の最大筋力、急性の爆発的トルク、一夜の完全不眠後の最大努力は、保たれる報告が目立ちます。有害事象としては、主観的な活力低下、日中の眠気、認知課題の遅延・不正確さ、競技特異的ミスの増加が挙げられます。睡眠薬や疾患治療の話は本稿の対象外です。
研究の限界は共通です。標本はおおむね10〜24名、若年者が多く、女性データは偏りがあります。睡眠介入は盲検がほぼ不可能で、プラセボと期待効果が混ざりやすいです。追跡は数日〜数週が中心で、筋肥大に要する月単位の試験は少ないです。「睡眠が大事」という直感に合う結果は発表されやすく、差が出なかった試験は埋もれやすい——出版バイアスの向きは、この領域では無視できません。Fullagar らが言うように、結論が割れていること自体が現状です。
実務的な読み替えはこうなります。連夜の短縮が続く時期は、多関節の高強度日を無理に積み増すより、睡眠時間の確保を優先する根拠がある。一夜眠れなかっただけで全メニューを中止する必要は、文献上は弱いです。減量期は睡眠が短いと除脂肪を守りにくくなります。睡眠延長は技能や反応時間の改善を期待しうる一方、筋肥大の特効薬として扱う証拠はありません。日中の強い眠気、呼吸の停止を指摘されるいびき、抑うつや不安が強い場合は、自己流の延長や制限より、医療機関での評価を優先してください。
次回予告
第3回は「栄養——総量と分配、どちらが効くのか」を扱う。回復期のタンパク摂取を、1日の総量と食間の分配に分けて、筋力・筋肥大への寄与を一次文献で並べます。
この連載の全10回
- 第1回|「回復した」とは何を指すのか——指標の整理
- 第2回|睡眠不足は筋力と筋肥大を削るのか(この記事)
- 第3回|栄養——総量と分配、どちらが効くのか
- 第4回|休息日——間隔の置き方と連続実施
- 第5回|軽く動くと回復は早まるのか
- 第6回|冷却——アイスバスは適応を妨げるのか
- 第7回|熱——サウナ・温浴・血流の操作
- 第8回|徒手とフォームローリング——何が動いているのか
- 第9回|ストレッチ——回復手段としての検証
- 第10回|過剰と不足——オーバーリーチングの見分け方と総括
出典
- Knowles OE, Drinkwater EJ, Urwin CS, Lamon S, Aisbett B. Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018;21(9):959-968.
- Nedeltcheva AV, Kilkus JM, Imperial J, Schoeller DA, Penev PD. Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity. Annals of Internal Medicine. 2010;153(7):435-441.
- Saner NJ, Lee MJ, Pitchford NW, et al. The effect of sleep restriction, with or without high-intensity interval exercise, on myofibrillar protein synthesis in healthy young men. The Journal of Physiology. 2020;598(8):1523-1536.
- Sigrist S, Abel MG, Best SA, Bollinger LM. Sleep restriction reduces voluntary isometric quadriceps strength through reduced neuromuscular efficiency, not impaired contractile performance. European Journal of Applied Physiology. 2024;124(11):3351-3363.
- Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011;34(7):943-950.
- Fullagar HH, Skorski S, Duffield R, Hammes D, Coutts AJ, Meyer T. Sleep and athletic performance: the effects of sleep loss on exercise performance, and physiological and cognitive responses to exercise. Sports Medicine. 2015;45(2):161-186.
- Knowles OE, Soria M, Saner NJ, et al. The interactive effect of sustained sleep restriction and resistance exercise on skeletal muscle transcriptomics in young females. Physiological Genomics. 2024;56(7):506-518.
- Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。日中の強い眠気、呼吸が止まるいびき、抑うつや不安が続く場合、心疾患や代謝疾患の治療中の方は、睡眠時間の自己判断での大幅な変更や睡眠薬の自己調整を避け、医療機関にご相談ください。






