耳鳴りは、外部に音源がないのに音が聞こえる現象です。成人の10〜15%、定義によっては24%が経験するとされ、睡眠、集中、情動の安定、社会生活を広く損ないます。しかし手術や薬で取り除ける標的がある例は稀で、推奨される治療の中心は心理的アプローチと音響療法です。

この構造が、耳鳴り研究の評価項目に独特の形を与えています。測られているのは「音の大きさ」ではなく「その音に人生がどれだけ支配されているか」です。耳鳴り障害尺度(THI)、耳鳴り機能指標(TFI)、耳鳴り質問票(TQ)——いずれも苦痛と機能障害を測る質問紙であり、音そのものの物理量ではありません。

ヨガと瞑想が耳鳴りに使われるのは、この「苦痛」の側に働きかけるからです。では実際に何が示されていて、何が示されていないのか。結論から言えば、マインドフルネスには対照群を置いた明確なRCTがあり、ヨガにはほとんどありません。同じ「心身介入」という括りで語られる二つの間に、証拠の厚みで大きな段差があります。

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音の大きさは、たぶん変わらない

まず、この領域で広く共有されている限界から確認します。慢性耳鳴りに対するマインドフルネス療法の総説は、次のように整理しています——現在の証拠は、マインドフルネスに基づく介入が耳鳴り関連の苦痛を軽減し、情動調節を改善し、QOLを高めうることを示唆する一方、耳鳴りの大きさそのものへの直接的効果の証拠は依然として限定的である(Zhang, 2026, Frontiers in Psychology)。

7本の論文・425人を対象とした系統的レビューも、同じ非対称を報告しています。3本のRCT、3本のコホート研究、1本の比較対照試験を検討した結果、7本中6本で治療直後に耳鳴り苦痛得点の統計的に有意な低下が見られ、3本のRCTのうち2本は対照群と比べても有意でした。しかし抑うつと不安については、3本のRCTのうち有意な改善を示したのは1本のみ。著者らは長期効果が不確実であることも明記しています(Rademaker, 2019, Frontiers in Neurology)。

「苦痛が減る」と「治る」の距離
耳鳴り研究で効果が出やすいのは苦痛尺度で、出にくいのが音の大きさと、不安・抑うつです。これは奇妙に見えますが、苦痛尺度は「耳鳴りのせいでどれだけ困っているか」を直接聞くため、その音への注意配分や解釈が変われば得点が動きます。一方、音の知覚そのものと、耳鳴りとは独立に存在しうる不安・抑うつは、そう簡単には動きません。効果が出た指標と出なかった指標の並びは、介入が何に作用したかをかなり正確に描いています。

ヨガの証拠は「5本」。その中身を開けてみる

ヨガと瞑想の耳鳴りへの応用を対象とした系統的レビューは、PubMed・Scopus・Cochrane Libraryから、著者2名が独立に三段階のスクリーニングを行い、最終的に5本を組み入れました。うち4本が各種のヨガとプラーナーヤーマ、1本はリラクセーション療法です。3本が、耳鳴りの重症度・ストレス・不安・易怒性の低下とQOLの改善という正の効果を結論しました(Gunjawate, 2021, The Journal of Laryngology & Otology)。著者らの結び——「この領域における効果を実証的に示すには、より多くのランダム化比較試験が必要である」。

この5本の実体を見ると、必要性の意味がわかります。

代表的な1本はトルコの研究で、慢性主観的耳鳴りと診断された12人が対象です。週1回のヨガクラスに通い、家庭ではワークシートを使って3か月実践しました。各クラスはアーサナ、プラーナーヤーマ、瞑想(シャヴァーサナとヨガニードラ)で構成されます。参加者は男性4人・女性8人、平均52.5歳、耳鳴りの罹病期間の中央値は5.4年。Wilcoxon検定の結果、ストレス(p = 0.01)、障害度(p = 0.004)、重症度(p = 0.007)のいずれも有意に改善しました(Köksoy, 2017, International Archives of Otorhinolaryngology)。

ただし12人、対照群なしです。慢性疾患の主観的尺度を3か月の前後で比較すれば、自然経過と平均への回帰と期待効果だけでも動きます。著者らの表現も「示唆しうる」にとどめられています。

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白質が変わった、という報告

対照群を置いた研究もあります。ポーランドで慢性耳鳴りの患者25人に12週間のヨガ訓練を行い、慢性耳鳴りを訴える13人を対照群としました。全員を耳鳴り機能指標(TFI)で評価し、25人のうち10人には訓練前後にMRIを実施しています。

TFIの下位領域12週間の訓練後に最も恩恵があったとされた領域
耳鳴りをコントロールできている感覚○
睡眠○
生活の質○
侵入性(intrusiveness)○

出典: Niedziałek ら (2019) より作成。

そしてMRI所見——訓練の結果として運動皮質の白質における結合が強まったように見えた。著者らの結論は「ヨガ訓練は慢性耳鳴り患者の日常機能を改善する良い可能性を持ち、耳鳴り治療を支える有望な方法とみなしうる」です(Niedziałek, 2019, Complementary Therapies in Clinical Practice)。

脳画像の所見が添えられると説得力が増しますが、ここは慎重に読む必要があります。MRIを撮ったのは介入群25人のうち10人だけで、対照群13人の画像はありません。したがって「ヨガによる変化」と「12週間の経過による変化」を区別できません。また運動皮質の白質結合が耳鳴りの苦痛とどう関係するのかについて、この研究は説明を与えていません。12週間、週に何度も同じ身体動作を繰り返せば運動皮質に何かが起きるのは自然で、それが耳鳴りの改善の原因だと言うには別の証拠が要ります。

マインドフルネスにはあって、ヨガにはないもの

ここで対比が効いてきます。マインドフルネス認知療法(MBCT)には、単施設ながら設計の整ったRCTがあります。慢性で苦痛を伴う耳鳴りの成人75人を、MBCT群39人と集中的リラクセーション訓練(RT)群36人に無作為に割り付けたものです。両群とも週1回120分×8回。対照が「待機」でも「通常ケア」でもなく、同じ時間・同じ形式の能動的介入である点が重要です。

時点MBCT と RT の耳鳴り重症度(TQ)の平均差統計
ベースラインから16週後6.3(95%CI 1.3〜11.4)p = 0.016
さらに6か月後7.2(95%CI 2.1〜2.3)p = 0.006、標準化効果量 0.56

出典: McKenna ら (2017) より作成。TQ = Tinnitus Questionnaire。

両群とも耳鳴りの重症度と大きさ、心理的苦痛、不安、抑うつ、障害が有意に減少しました。その上でMBCTのほうがRTより有意に大きく耳鳴り重症度を下げ、その差は6か月後にむしろ拡大しています。しかも効果は、当初の耳鳴りの重症度・罹病期間・難聴の有無にかかわらず認められました(McKenna, 2017, Psychotherapy and Psychosomatics)。

同じ構図は別のRCTでも再現されています。マインドフルネス瞑想5セッションとリラクセーション療法5セッションを比較した試験では、86人が登録され、瞑想群34人・リラクセーション群27人が完遂。健康状態指標を除くすべての評価指標で両群とも有意に改善し、得点の変化量は瞑想群のほうが大きいという結果でした(Arif, 2017, The Journal of Laryngology & Otology)。

さらに示唆的なのは、時間経過の違いを捉えた試験です。耳鳴りに関する心理教育を1セッション行った2か月後に、マインドフルネスかリラクセーション訓練を週1回6回実施したところ、心理教育そのものが否定的情動・反芻・心理的困難を減らし、その効果はマインドフルネス条件では維持または増強された一方、リラクセーション条件では追跡期間中に侵食されたのです(Philippot, 2012, Clinical Psychology & Psychotherapy)。

三つの試験が共通して示しているのは、「リラックスすること」と「受容を伴う注意の訓練」は違うということです。そしてヨガ研究の多くは、この区別を検証できる設計になっていません。

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ブラーマリー——ハミングという特異な介入

ヨガの技法の中で、耳鳴りに対して独特の位置を占めるものがあります。ブラーマリー・プラーナーヤーマ——ハチの羽音のようなハミングを伴う呼吸法です。自ら音を出すという点で、音響療法と機序が重なりうる。

慢性の純音性耳鳴りが3か月以上続き、治療歴のない30人を二群に分けた準実験研究が行われました。両群とも15分のホワイトノイズ・マスキング、リラクセーション、腹式呼吸を受け、一方の群はさらにブラーマリーを実施。評価はピッチ・ラウドネスマッチング、耳鳴り障害尺度(THI)、病院不安抑うつ尺度(HADS)です。

結果は分かれました。両群とも耳鳴りのラウドネス知覚が有意に改善し、ラウドネス得点はブラーマリー群のほうが有意に低かった。一方、不安は音響療法単独群で改善し、ブラーマリー群では抑うつの低下が大きいという、逆向きの分かれ方をしています(Chalotra, 2026, Indian Journal of Otology)。30人の準実験研究で、副次評価項目が逆向きに分かれた場合、それを機序の違いと読むのは早計です。ただしラウドネス知覚が動いた点は、先に見た「音の大きさは変わらない」という一般則に対する例外候補として記録に値します。

なお、音響療法自体には用量反応の証拠があります。慢性耳鳴り58人を1日1時間・3時間・5時間の三群に無作為化し、混合点方式の音響療法を3か月行った研究では、1日の実施時間が長いほど耳鳴りのラウドネスレベルと質問紙得点の改善が大きく、3時間群・5時間群が1時間群に優りました(Jin, 2022, Journal of Speech, Language, and Hearing Research)。ヨガ研究にこの種の用量反応の検証はまだありません。

比較対象としてのスマートフォンアプリ

耳鳴りの非薬物療法で、いま最も強い効果量を出しているのはアプリです。慢性耳鳴りの187人を、認知行動療法に基づくアプリ使用群と3か月遅らせて開始する対照群に均等に無作為化した試験では、3か月時点で耳鳴り質問票の合計得点が対照群より統計的に有意かつ臨床的に意味のある水準で低下しました。Cohenのd = 1.1。治療関連の副作用の報告はありませんでした(Walter, 2023, PLOS Digital Health)。

認知行動療法と個別化音響療法を組み合わせたアプリの別のRCT(92人)でも、8週間後の耳鳴り機能指標の改善が介入群16.7±14.9に対し対照群1.9±10.8(p < .001)と大きな差がつき、抑うつ・不安・睡眠の質も有意に改善しています(Goshtasbi, 2024, Annals of Otology, Rhinology, and Laryngology)。

これらを引くのは、アプリを勧めるためではありません。同じ疾患・同じ評価尺度で、d = 1.1 が出る介入が存在するという事実が、ヨガ研究の位置を測る物差しになるからです。12人の単群試験で p = 0.004 が出たことと、187人のRCTで d = 1.1 が出たことは、証拠としての重みがまったく違います。

専門家の合議が言ったこと

ブラジルの耳鼻咽喉科医・言語聴覚士・理学療法士を対象に、デルファイ法を2段階で適用した合意形成研究があります。第1段階は23人の専門家、第2段階は10人が34の陳述を5件法で評価し、34項目中25項目で合意(内容妥当性係数 ≥ 0.70)が得られました。

合意された内容は具体的です——専門家はマインドフルネスを耳鳴りの治療資源とみなすが、単独療法としてではない。適用は週1回・30分以上、家庭での日々の実践を伴う。8週間後にTHIやVASなどの尺度で追跡する(Honorato, 2026, CoDAS)。

「単独療法としてではない」という一点は、この領域の他の資料とも一致します。別の総説は、マインドフルネスに基づく介入が耳鳴り苦痛と不安・抑うつの軽減に中等度の証拠を持ち、一部の研究では6か月まで効果が持続したとする一方、「厳密な試験は不足しているものの、ヨガには予備的な証拠があり、小規模研究がストレスと耳鳴り関連症状への利益を示唆している」と、ヨガについては明確に一段低い評価を与えています(Heidari, 2026, Journal of Modern Rehabilitation)。

同じレビューが指摘した、もう一つ重い問題があります——「耳鳴りの強度や不安への効果が限定的であったといった否定的所見は、報告されない傾向にある」。効いた研究が発表され、効かなかった研究が引き出しに残るなら、先に見た「5本中3本が正の効果」という比率そのものが、実態より楽観的に歪んでいる可能性があります。

感染症流行下でのテレヨガの可能性を検討した総説も、COVID-19が聴覚前庭系に影響した際に最も多く報告された症状が耳鳴りであったことを踏まえ、ヨガを心理社会的要因への対処戦略として位置づけ、遠隔での提供が実際的・実行可能・安全な手段になりうると提案しています(Apoorva, 2023, Journal of Ayurveda and Integrative Medicine)。実行可能性の議論としては妥当ですが、有効性の証拠とは別の話です。

読むときの手がかり

論点いま言えることまだ言えないこと
耳鳴りの苦痛マインドフルネスは能動的対照(リラクセーション)に優る。6か月持続ヨガ単独で同じことが言えるか
音の大きさ—直接的効果の証拠は限定的(ブラーマリーに例外候補)
不安・抑うつ—3本のRCTで有意は1本のみ
ヨガの試験規模系統的レビューで組み入れは5本うち代表例は12人の単群試験
脳の変化運動皮質の白質結合が強まったとの報告対照群のMRIがなく、耳鳴りとの関係も未説明
用量音響療法は1日3時間以上で効果が大きいヨガの用量反応は未検証
使い方専門家合議は単独療法としての使用を否定—

実務的な読み方を三つ。

「ヨガ」と「マインドフルネス」を一括りにしない。この領域の証拠の大半はマインドフルネス(MBCT、MBSR)のもので、ヨガのアーサナ実践に固有の証拠はごく薄い。ヨガのクラスに瞑想と呼吸法が含まれている以上、重なりはありますが、MBCTの75人RCTの結果をヨガ教室に持ち込むのは飛躍です。

対照群がリラクセーションかどうかを見る。この疾患では、待機群を対照にすればほとんどの介入が勝ちます。意味のある比較は「同じ時間、同じ形式で別のことをした群」との比較であり、そこで初めてリラックス以上の何かが起きたと言えます。耳鳴り領域はこの設計の試験を複数持っている稀な分野で、そのすべてがマインドフルネス側の研究です。

既存の治療を置き換えない。系統的レビューも専門家合議も、ヨガ・瞑想を通常の耳科学的・聴覚学的治療と並行して用いる位置づけで一致しています。難聴の評価、補聴器の適合、音響療法、認知行動療法——確立された選択肢を検討したうえで、その上に重ねるものとして考えるのが、いまの証拠に最も素直な使い方です。

出典

  1. Zhang Z, et al. Mindfulness-based therapy for chronic tinnitus: a narrative review. Frontiers in Psychology. 2026. DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1738053
  2. Rademaker MM, et al. The Effect of Mindfulness-Based Interventions on Tinnitus Distress. A Systematic Review. Frontiers in Neurology. 2019. DOI: 10.3389/fneur.2019.01135
  3. Gunjawate DR, et al. Effect of yoga and meditation on tinnitus: a systematic review. The Journal of Laryngology & Otology. 2021. DOI: 10.1017/s0022215121000566
  4. Köksoy S, et al. The Effects of Yoga in Patients Suffering from Subjective Tinnitus. International Archives of Otorhinolaryngology. 2017. DOI: 10.1055/s-0037-1601415
  5. Niedziałek I, et al. Effect of yoga training on the tinnitus induced distress. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2019. DOI: 10.1016/j.ctcp.2019.04.003
  6. McKenna L, et al. Mindfulness-Based Cognitive Therapy as a Treatment for Chronic Tinnitus: A Randomized Controlled Trial. Psychotherapy and Psychosomatics. 2017. DOI: 10.1159/000478267
  7. Arif M, et al. A randomised controlled study of mindfulness meditation versus relaxation therapy in the management of tinnitus. The Journal of Laryngology & Otology. 2017. DOI: 10.1017/s002221511700069x
  8. Philippot P, et al. A randomized controlled trial of mindfulness-based cognitive therapy for treating tinnitus. Clinical Psychology & Psychotherapy. 2012. DOI: 10.1002/cpp.756
  9. Chalotra S, et al. Evaluation of Utility of Bhramari Pranayama in Tinnitus Management. Indian Journal of Otology. 2026. DOI: 10.4103/indianjotol.indianjotol_201_25
  10. Jin IK, et al. The Impact of Daily Hours of Sound Therapy on Tinnitus Relief for People With Chronic Tinnitus: A Randomized Controlled Study. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2022. DOI: 10.1044/2022_jslhr-21-00651
  11. Walter U, et al. Randomized controlled trial of a smartphone-based cognitive behavioral therapy for chronic tinnitus. PLOS Digital Health. 2023. DOI: 10.1371/journal.pdig.0000337
  12. Goshtasbi K, et al. Smartphone-Based Cognitive Behavioral Therapy and Customized Sound Therapy for Tinnitus: A Randomized Controlled Trial. The Annals of Otology, Rhinology, and Laryngology. 2024. DOI: 10.1177/00034894241297594
  13. Honorato MCM, et al. Use of mindfulness in the treatment of tinnitus: consensus based on the opinion of Brazilian experts. CoDAS. 2026. DOI: 10.1590/2317-1782/e20250182en
  14. Heidari P, et al. The Role of Mindfulness, Yoga, and Hypnosis in Tinnitus Management: A Comprehensive Narrative Review. Journal of Modern Rehabilitation. 2026. DOI: 10.18502/jmr.v20i2.21708
  15. Apoorva HM, et al. Usefulness of Yoga in the management of tinnitus during COVID-19: A narrative review. Journal of Ayurveda and Integrative Medicine. 2023. DOI: 10.1016/j.jaim.2023.100822

本記事は研究論文の要約であり、医学的助言ではありません。耳鳴りが急に始まった場合、片側のみの場合、難聴やめまいを伴う場合は、治療可能な原因が隠れていることがあります。まず耳鼻咽喉科を受診してください。ヨガや瞑想は確立された治療の代わりではなく、担当医と相談のうえで併用を検討してください。

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