「ピラティスは身体感覚(固有受容感覚)を高める」——ピラティスの説明として、最もよく使われる言い方のひとつです。

実際、それを支持する研究は複数あります。ところが2026年、この分野の概念そのものを検討したナラティブレビューが、こう書きました。

「固有受容感覚的(proprioceptive)と名づけられた介入は、しばしば一般的な神経筋運動やバランス運動と区別がつかない。」

「固有受容感覚的と明示的にラベルづけされた介入のほとんどは、真の感覚的な適応ではなく、一般的な運動適応を引き起こしている。」

「現在の評価ツールは、これらの下位様式を、生態学的妥当性の限られた人工的な条件下で切り分けている。」

1,412件から119件を検討した結果です(El Husseini Cardenas ら, 2026, Journal of Functional Morphology and Kinesiology)。

つまり「感覚が鋭くなった」のか「動きがうまくなった」のか、いまの測り方では区別できていない可能性がある——という指摘です。

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「固有受容感覚」とは何を指すのか

まず用語を整理します。同レビューによれば、固有受容感覚は3つの異なる下位様式からなり、それぞれ別の受容器と経路が担っています。

下位様式内容
関節位置覚関節がいまどの角度にあるか
運動覚(キネステジア)関節が動いていることを、どれだけ小さな動きで感知できるか
力覚どれだけの力を出しているか

この区別が重要になるのは、ピラティスの研究で、この3つが別々に動くからです。

同じ試験で、片方だけが改善する

変形性膝関節症の患者39名を対象に、週3回・10週間の臨床ピラティスを行った試験があります。

指標運動群対照群群間
運動覚3.04 → 2.33(p = .050)=改善1.87 → 2.18(p = .938)p = .672
位置覚1.75 → 1.08(p = .480)=有意でない2.27 → 1.20(p = .121)p = .865

結論は「変形性膝関節症の患者において、運動覚という点では臨床ピラティスを念頭に置くべきである。今後の研究では、位置覚をより詳細に検討することを推奨する」(Kısacık ら, 2016, Annals of the Rheumatic Diseases)。

注意すべきは群間比較がいずれも有意でないことです。群内では動いたが、対照群と比べると差が出ていません。

視覚障害のある女子学生22名を対象にした8週間の試験でも、同じ「分かれ方」が起きています。

指標結果
膝の位置覚(20°・45°)有意に改善(p ≤ .05)
膝の位置覚(60°)有意な変化なし(p > .05)
膝の運動覚群間で有意に改善(p ≤ .05)
足関節の位置覚(背屈・底屈)有意差なし(p > .05)
全体バランス・前後バランス有意に改善(p ≤ .05)
左右バランス有意差なし(p > .05)
転倒リスク指標有意に改善(p ≤ .05)

(Eskandari ら, 2024, Asian Journal of Sports Medicine)

膝は変わり、足首は変わらない。20度と45度では変わり、60度では変わらない。前後は変わり、左右は変わらない。

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扁平足では、改善しなかった

18〜25歳の女子大学生91名を、柔軟性扁平足の有無で分け、16週間のピラティスを行った研究があります。

所見結果
群内の前後比較ピラティス群と健常対照群で、静的バランス・足関節・膝の位置覚が改善(p < .05)
群間比較(事後)背屈(p < .05、η² = 0.10)と底屈(p < .05、η² = 0.08)の位置覚再現テストで、健常対照群が有利
相関健常対照群でのみ、足関節・膝の固有受容感覚と静的バランスの改善が正に相関

結論は「ピラティスは静的バランスと足関節・膝の固有受容感覚を改善する可能性を示した。しかしながら、扁平足の人では姿勢制御と固有受容感覚を改善しなかった」。著者らは「女性の柔軟性扁平足の改善には、ピラティスを他の介入と組み合わせることを助言する」としています(Ghorbani ら, 2024, Foot & Ankle Specialist)。

構造的な問題がある人では、効かなかった——という所見です。

肯定的な報告もある

誤解のないように、肯定的な結果も並べます。

健常者33名を対象に、オンラインで週3回・6週間のマットピラティスを行った無作為化比較試験では——ピラティス群で体幹の固有受容感覚とすべてのコア筋持久力テストが改善(p < .05)、対照群では有意な差なし(p > .05)。著者らは「遠隔で実施されたとしても、ピラティスが筋持久力と固有受容感覚の両方の発達に寄与することは重要である」と述べています(Suner-Keklik ら, 2021, Irish Journal of Medical Science)。

変形性膝関節症の60名を、ピラティス群と固有受容感覚訓練群に分けた6週間の試験では——両群とも膝の固有受容感覚、痛み、機能障害が有意に改善(p < .05)。ただし左右の膝の固有受容感覚では群間に有意差があり、ピラティス群のほうが改善が大きかった(p < .05)。一方、痛みと機能障害には群間差なし(p > .05)(Rajinder ら, 2016)。

18の論文から10件を精査したレビューは「ピラティス介入は、従来のバランス介入より固有受容感覚を改善することが見出されている」と要約しています(Chhabra ら, 2025, Journal of Clinical and Diagnostic Research)。

神経疾患のある人を対象とした7研究のメタ分析では——コア基盤の運動が関節位置覚(−1.33、−2.09〜−0.57、I² = 0%、p < .001)と運動覚(−0.33、−0.62〜−0.05、I² = 0%、p < .05)を有意に改善。ただし疾患別では脳卒中患者でのみ有意(−1.05、p < .05)で、パーキンソン病や舞踏病では有意でない。種目別ではコア安定性運動のみが有意(−0.55、p < .001)で、ヨガは有意な効果を示さなかった(Lee ら, 2024, Exercise Science)。

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ところが、比較対象を置くと差が消える

ここに、この分野の最も重要な実験があります。

男性選手60名を対象に、不安定板を使った固有受容感覚エクササイズ10分と自転車エルゴメーターでの非特異的運動10分を比較した被験者内デザインの研究です。

指標固有受容感覚運動非特異的運動p値
膝関節位置覚−6.9 ± 65.2%−11.5 ± 75.0%.680
静的バランス(BESS)−19.3 ± 47.7%−29.03 ± 23.5%.121
動的バランス(Yバランス)2.6 ± 2.7%2.2 ± 2.2%.305

ただ自転車を漕いだだけの群でも、膝の位置覚とバランスが同じだけ改善しました。

さらに60名中20名は、どちらの運動でも膝関節位置覚が改善しませんでした(非反応者)。反応した人だけを解析すると、固有受容感覚運動のほうが改善が大きくなります(56.4 ± 25.6% vs 43.8 ± 18.9%、p = .023)(Harry-Leite ら, 2022, Applied Sciences)。

この結果は、冒頭の指摘——「固有受容感覚的と名づけられた介入は、一般的な神経筋運動と区別がつかない」——を実証しています。

バランスについては、もう少し整理がついている

39研究1,770名を統合した2024年のメタ分析です。

アウトカム対照群との比較
動的姿勢バランス1.60 〜 0.72
静的姿勢バランス0.37 〜 0.25
バランスの全般的状態0.76
転倒の回数・転倒への恐怖有意でない
他の運動との比較同等

著者らは「39研究のうち、方法論的な質が満足できるものは14研究のみ」「どのアウトカムも証拠の確実性が高くないため、今後の研究がこれらの所見を変える可能性がある」と明記しています(Furtado de Campos ら, 2024, Complementary Therapies in Clinical Practice)。

6研究261名の別の統合では全体効果量0.89(0.29〜1.49)。そして興味深いことに、介入期間、週あたりの量、研究の質のいずれも、効果の大きさと関連していませんでした(p = .557/.565/.869)(Casonatto ら, 2020, Complementary Therapies in Medicine)。

測定法による分かれ方も報告されています。60歳以上の女性14名を16セッション追った試験では——SPPBとTimed Up and Goは有意に改善(p < .001)。一方、床反力計で測った静的バランスの大半の変数には有意差なし(Serra ら, 2023, Journal of Bodywork and Movement Therapies)。

60歳以上の女性50名を3か月追った試験でも——群内では右足の重心動揺面積(p = .0037)と平均速度(p = .0262)、安定性限界(p = .005)、不安定面・閉眼での感覚統合テスト(p = .0409)が有意に改善。しかしこれらの変化はいずれも対照群との比較では有意でなかった(Długosz-Boś ら, 2021, International Journal of Environmental Research and Public Health)。

すぐに変わるものもある

非特異的腰痛のある若年者46名に、20分間・4種目だけのピラティスを行わせた研究があります。

指標ピラティス群対照群
重心動揺面積11.5 → 9.7 cm²(p = .002)変化なし
重心速度2.8 → 2.3 cm/秒(p < .001)改善したが、ピラティス群より有意に小さい
スターエクスカージョンバランステスト改善—

20分で変わった——これは組織の適応ではなく、注意や運動制御の変化と考えるのが自然です(Lopes ら, 2017, Complementary Therapies in Medicine)。

膝が内側に入る(動的膝外反)人36名を対象にした6週間の比較では——ピラティス群でドロップジャンプ時の前額面投影角(p = .002)、大腿直筋の筋力(p = .006)、全体の姿勢安定性(p = .020)、前後の安定性(p = .006)が有意に改善。片脚スクワット時の角度は神経筋運動群(p = .007)とピラティス群(p = .002)の両方で有意でした(Demir ら, 2025, Research in Sports Medicine)。

装置を加えた試験もあります。高齢者45名(平均78.3歳)を、振動器具を併用したピラティスと通常のピラティスに分けた6週間の試験では——併用群で歩行速度、ケイデンス、10m歩行、5回立ち座り、握力、手関節の位置覚が、通常ピラティス群より改善しました(Yoon ら, 2024, Medical Science Monitor)。

慢性期脳卒中患者20名を対象にした3週間の試験では、全員が全種目を安全に実施でき、バランス・筋力・歩行能力が対照より有意に改善(p < .001)。Timed Up and Goの平均差2.23秒、5回立ち座り1.72秒、10m歩行0.15 m/秒でした(Promkeaw ら, 2025, NeuroRehabilitation)。

固有受容感覚訓練そのものの証拠

参考として、固有受容感覚訓練全般の証拠も確認しておきます。70研究を検討した系統的レビューでは——固有受容感覚訓練は、固有受容感覚(+46%)と運動パフォーマンス(+45%)に同程度の向上をもたらした。能動的な運動を用いた介入(70件中50件)が最も成功しやすく、関節位置覚誤差が最もよく使われ、臨床で信頼でき実行可能な指標とされています。

ただし著者らは「訓練による獲得がどれだけ長く保持されるかについての決定的な証拠は、いまだ欠けている」「固有受容感覚訓練に伴う長期的な神経可塑的変化についての確かな証拠はない」とも明記しています(Winter ら, 2022, Frontiers in Rehabilitation Sciences)。

競技場面では、19研究を検討したレビューがバランス、爆発的筋力、スピード、敏捷性、姿勢安定性、膝関節位置覚、筋活動、慢性的な関節不安定性の軽減、ドリブル・パス・ボールコントロール技術への好影響を報告しています(Yılmaz ら, 2024, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation)。

なお、ピラティスとヨガを固有受容感覚の観点から論じた解説は、この能力が「視覚系・前庭系とともに、神経・介在ニューロン・運動ニューロンのシナプスを介して大脳運動野と小脳へ統合される」ものであり、「知識と身体運動によって改善しうる」と整理しています(García-Falgueras, 2016, British Journal of Medicine and Medical Research)。

いま言えること

  • 「固有受容感覚が改善した」という報告は複数ある。ただし群間比較では有意にならない試験が多い
  • 運動覚は改善しても位置覚は改善しない、膝は変わっても足首は変わらない、という分かれ方が繰り返し起きる
  • 扁平足のある人では、姿勢制御も固有受容感覚も改善しなかった
  • 自転車を10分漕いだだけの群でも、膝関節位置覚が同じだけ改善した(p = .680)
  • 選手60名中20名は、どちらの運動でも位置覚が改善しない「非反応者」だった
  • 2026年のレビューは「固有受容感覚的と名づけられた介入のほとんどは、真の感覚的適応ではなく一般的な運動適応を引き起こしている」と指摘
  • バランスについては、動的(1.60〜0.72)と静的(0.37〜0.25)で改善が示されている
  • ただし転倒の回数と転倒への恐怖は有意にならず、他の運動とも同等
  • 39研究のうち方法論的な質が満足できるものは14研究のみ
  • 20分・4種目でも重心動揺が改善する。組織の適応では説明できない速さ
  • 固有受容感覚訓練の長期保持と神経可塑的変化については、確かな証拠がない

整理すると、こうなります。

「ピラティスで身体感覚が鋭くなる」——この主張は、いまの測定法では検証しきれていません。数字は動きますが、それが感覚の変化なのか動きの慣れなのかを、研究者自身が区別できていないと述べています。

一方、バランスの測定値が改善することは、繰り返し示されています。ここは比較的確かな部分です。

ただし「転倒が減る」ことは示されていません。測定値の改善と、実生活の結果は別です。

そして、特別な運動である必要はなさそうです。自転車でも同じだけ改善したという結果を、どう受け止めるかが問われています。

出典

  1. El Husseini Cardenas N, et al. Clarifying Proprioceptive Training: A Narrative Review. Journal of Functional Morphology and Kinesiology. 2026. DOI: 10.3390/jfmk11030279
  2. Kısacık P, et al. The Effects of Clinical Pilates Exercises on Kinestesia and Position Sense in Patients with Osteoarthritis of The Knee. Annals of the Rheumatic Diseases. 2016. DOI: 10.1136/annrheumdis-2016-eular.4930
  3. Eskandari A, et al. Eight-Week Pilates Program Effects on Balance, Fall Risk, and Proprioception in Visually Impaired Female Students. Asian Journal of Sports Medicine. 2024. DOI: 10.5812/asjsm-148272
  4. Ghorbani M, et al. Effects of Pilates Exercise Training on Static Balance and Lower Limbs Proprioception in Adult Females With and Without Flexible Flatfeet. Foot & Ankle Specialist. 2024. DOI: 10.1177/19386400241279930
  5. Suner-Keklik S, et al. An online pilates exercise program is effective on proprioception and core muscle endurance in a randomized controlled trial. Irish Journal of Medical Science. 2021. DOI: 10.1007/s11845-021-02840-8
  6. Rajinder K, et al. Comparison of Pilates Exercises and Proprioceptive Exercises on Joint Position Sense in People with Knee Osteoarthritis. 2016. DOI: 10.21275/v5i2.nov161263
  7. Chhabra A, et al. Impact of Pilates on Proprioception: A Review. Journal of Clinical and Diagnostic Research. 2025. DOI: 10.7860/jcdr/2025/80478.21706
  8. Lee HC, et al. Role of Core-Based Exercises in Improving Proprioception among Individuals with Neurological Disorders: A Systematic Literature Review and Meta-Analysis. Exercise Science. 2024. DOI: 10.15857/ksep.2024.00164
  9. Harry-Leite P, et al. Acute Impact of Proprioceptive Exercise on Proprioception and Balance in Athletes. Applied Sciences. 2022. DOI: 10.3390/app12020830
  10. Furtado de Campos J, et al. Effects of Pilates exercises on postural balance and reduced risk of falls in older adults: A systematic review and meta-analysis. Complementary Therapies in Clinical Practice. 2024. DOI: 10.1016/j.ctcp.2024.101888
  11. Casonatto J, et al. Pilates exercise and postural balance in older adults: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Complementary Therapies in Medicine. 2020. DOI: 10.1016/j.ctim.2019.102232
  12. Serra A, et al. Influence of the pilates method on postural balance parameters in older women: An exploratory single-arm trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2023. DOI: 10.1016/j.jbmt.2023.09.004
  13. Długosz-Boś M, et al. Effect of Three Months Pilates Training on Balance and Fall Risk in Older Women. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021. DOI: 10.3390/ijerph18073663
  14. Lopes S, et al. Immediate effects of Pilates based therapeutic exercise on postural control of young individuals with non-specific low back pain: A randomized controlled trial. Complementary Therapies in Medicine. 2017. DOI: 10.1016/j.ctim.2017.08.006
  15. Demir N, et al. Which exercise program improves on postural control and functional alignment in individuals with dynamic knee valgus? Pilates vs neuromuscular exercises. Research in Sports Medicine. 2025. DOI: 10.1080/15438627.2025.2572717
  16. Yoon D, et al. Enhancing Balance and Strength in Older Adults: The Impact of Pilates and Vibro-Swing Exercises. Medical Science Monitor. 2024. DOI: 10.12659/msm.945212
  17. Promkeaw D, et al. The Effects of Pilates Exercise on Balance Control, Muscle Strength and Walking Ability in Patients with Stroke: A Randomized Controlled Trial. NeuroRehabilitation. 2025. DOI: 10.1177/10538135251382908
  18. Winter L, et al. The Effectiveness of Proprioceptive Training for Improving Motor Performance and Motor Dysfunction: A Systematic Review. Frontiers in Rehabilitation Sciences. 2022. DOI: 10.3389/fresc.2022.830166
  19. Yılmaz O, et al. Effects of proprioceptive training on sports performance: a systematic review. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024. DOI: 10.1186/s13102-024-00936-z
  20. García-Falgueras A. An Introduction to Proprioception Concept in Pilates and Yoga. British Journal of Medicine and Medical Research. 2016. DOI: 10.9734/bjmmr/2016/25540

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。効果量は集団の平均であり、個人への当てはまりを保証するものではありません。ふらつき、めまい、転倒が増えた場合は、内耳疾患、起立性低血圧、末梢神経障害、薬の副作用、脳血管疾患など医学的な原因が隠れていることがあります。神経内科、耳鼻咽喉科、整形外科などを受診してください。神経疾患や脳卒中後の方、著しくバランスが低下している方は、転倒予防の環境を整えたうえで、理学療法士など専門職の指導のもとで行ってください。

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