抗がん剤治療中の筋力トレーニングについて、7つのランダム化比較試験・561名を統合した2024年のメタ分析があります。結果は、こうでした。

アウトカム効果量(95%信頼区間)証拠の質判定
下肢筋力0.33(0.12〜0.53)中有意
生活の質0.13(−0.15〜0.42)低効果の証拠なし
倦怠感−0.08(−0.37〜0.22)低効果の証拠なし
身体機能0.61(−0.73〜1.95)非常に低い効果の証拠なし
上肢筋力0.37(−0.07〜0.80)非常に低い効果の証拠なし

有意になったのは下肢筋力だけ。しかも、効果量が最も大きい身体機能(0.61)は信頼区間が−0.73から1.95まで広がっていて、有意ではありません(Metcalfe ら, 2024, Supportive Care in Cancer)。

ところが、倦怠感については別の統合が正反対の結論を出しています。

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倦怠感——統合ごとに割れる

統合対象倦怠感への効果
Metcalfe ら, 2024抗がん剤治療中・7RCT 373名−0.08(−0.37〜0.22)=有意でない
Lange ら, 2024乳がん・抗がん剤治療中・8RCT 866名−0.30(−0.52〜−0.08、p = .008)=有意
Contreras ら, 2022がん治療中・13RCT−0.31(−0.58〜−0.12、p = .001)=有意
Hernández-Nahuelcoy ら, 2026乳がん・6RCT−0.30(−0.46〜−0.14、p < .001)=有意
Gray ら, 2023がんサバイバー・8研究FACIT-F で 0.932(p < .001)、PFS-R で −0.622(p = .004)=有意
Nader ら, 2024前立腺がん・20研究1,393名0.07(−0.13〜0.26、p = .51)=有意でない

効果量が −0.08 から −0.31、さらに 0.932 まで散らばっています。

この幅を生んでいるのは、主に3つの違いです。

違い内容
がんの種類乳がんでは有意、前立腺がんでは有意でない(傾向のみ、p = .072)
治療中か、治療後か治療中は倦怠感そのものが治療で増悪する。効果を検出しにくい
どの尺度で測ったかFACIT-F、PFS-R、EORTC など尺度が異なり、同じ「倦怠感」を測っていない

なぜ倦怠感は動きにくいのか

この不一致には、測定の側の事情があります。

がん関連倦怠感は、運動で疲れる「疲労」とは別物です。休んでも眠っても取れない、という点が定義に含まれます。Gray らは「がん関連倦怠感は容赦がない。休息も睡眠も、認知的・感情的・身体的な症状を改善しないため、生活の質が低下する」と書いています(Gray ら, 2023, Disability and Rehabilitation)。

そのうえで、次の3つが重なります。

要因効果の検出への影響
治療そのものが倦怠感を増やす抗がん剤のサイクルが進むほど倦怠感は強まる。介入群も対照群も悪化する中での差を見ることになる
盲検化できない運動した人は「やった」と分かっている。自己報告の尺度には期待が入りうる
尺度が複数あるFACIT-F、PFS-R、EORTC QLQ-C30 の倦怠感サブスケールなどが混在し、統合すると効果が薄まる

Lange らは強度による傾向にも触れています——「強度の影響への傾向があり、より高い強度が総倦怠感をより低くする可能性がある」。ただしこれは傾向の記述であり、確立した用量反応ではありません。

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筋肉については、一貫している

倦怠感と違い、筋肉と筋力については結果が揃っています。

20論文1,910名(平均54歳、76.5%が女性)を統合した解析です。

アウトカム効果量/平均差p値
上肢筋力0.57(0.36〜0.79)< .0001
下肢筋力0.58(0.18〜0.98).005
握力1.32 kg(0.37〜2.27)< .01
除脂肪量0.23(0.03〜0.42).02

結論は「レジスタンストレーニングは、抗がん剤治療および/または放射線治療を受けているがん患者の筋力と除脂肪量を改善する、有効な補助療法である」(McGovern ら, 2022, Supportive Care in Cancer)。

興味深いのは、34試験を統合した別の解析が示した内訳です。

群除脂肪量の変化
介入群 vs 対照群の差+0.85 kg(0.26〜1.43、p = .004)=有意
介入群だけを見ると+0.51 kg(−0.05〜1.06、p = .072)=有意でない
対照群だけを見ると−0.59 kg(−1.04〜0.06、p = .078)=有意でない

つまり群間差0.85 kgの内訳は、「増えた0.51」と「減らずに済んだ0.59」の合計です。筋トレは増やしたというより、減るのを止めた——この読み方のほうが実態に近いかもしれません。

著者らは「監督の有無が媒介的な役割を示した」とし、「とくに監督下の設定において」効果があると結論しています(Koeppel ら, 2021, Critical Reviews in Oncology/Hematology)。

乳がん・抗がん剤治療中に絞ると

11のランダム化比較試験を統合した、サルコペニア予防に焦点を当てた解析があります。

アウトカム効果量(95%信頼区間)
体脂肪−0.250(−0.450〜−0.050)
除脂肪量0.374(0.178〜0.571)
握力(患側)0.326(0.108〜0.543)
握力(健側)0.276(0.059〜0.492)
レッグプレス筋力0.598(0.401〜0.796)
身体パフォーマンス0.671(0.419〜0.923)

すべて有意です。実務的な処方も提示されています——「理想的な低強度レジスタンストレーニングは8〜24週、1回20〜90分、週2〜4回。1RMの40〜90%で8〜12回、主要筋群を狙うフリーウェイトが実質的な便益をもたらす」(Tan ら, 2024, Worldviews on Evidence-Based Nursing)。

用量については、別の解析がより具体的な数字を出しています——「用量反応解析は、倦怠感の軽減において累積2,800回の総反復数で最大効果に達することを示す」(Hernández-Nahuelcoy ら, 2026, Brazilian Journal of Physical Therapy)。

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報告の質という問題

同じ2026年の解析は、この分野の記述の粗さを数字で示しています。

報告されていた割合項目
21%セット間の休息
16%療法士の経験
11%痛みの閾値
0%緊張持続時間
0%内的/外的焦点

著者らは「プログラムの処方に関する情報は、より透明で再現可能なレジスタンストレーニングのプロトコルを提供するために、大幅に改善されうる」と述べています。

「どんな筋トレをしたのか」が書かれていない研究を統合しているのだから、結果がばらつくのは当然とも言えます。

101試験を俯瞰すると

101のランダム化比較試験(102研究)を検討した、この分野で最大規模の系統的レビューがあります。

アウトカムの種類改善を示した研究の割合
上肢・下肢・四肢の筋量67〜100%
筋力61〜68%
身体機能74〜100%
筋関連のバイオマーカー75〜100%が「有意な変化なし」または「一貫しない結果」

研究の内訳は乳がんが46%、治療を終えた人が43%、期間は3〜4か月が48%、有酸素運動との併用が56%、監督下・対面が57%。結論は「概して、レジスタンス運動は骨格筋量とパフォーマンスに正の効果を持ち、対照と比べて負の効果はなかった」(Kang ら, 2024, Medicine & Science in Sports & Exercise)。

「負の効果はなかった」——がん治療中の運動について、これ自体が重要な所見です。

48研究3,843名を検討した別のレビューは、形式ごとの違いを整理しています——「34研究がすべてのがん種で体力への有意で有益な効果を報告し、28研究が生活の質への有意または境界域の改善を報告した。一方、倦怠感の改善に有意な効果を報告したのは10研究にとどまった」。そして「レジスタンス運動は筋力の改善に利点があり、併用は生活の質の改善に利点がある。ただし倦怠感の改善については一貫した所見がない」(Zhang ら, 2024, Frontiers in Oncology)。

がん種による差

8つのがん種を横断した25試験のレビューは、報告された改善の内訳を示しています。

アウトカム改善を報告した試験
生活の質13件中12件
がん関連倦怠感10件中9件
体組成8件中6件
機能的能力12件中7件
抑うつ・不安7件中2件

最も一貫した処方は「中強度・週3回」でした。効果が確認されたのは乳がん、前立腺がん、リンパ腫、多発性骨髄腫、大腸がん、肺がん、頭頸部がん。卵巣がんについては、基準を満たす試験が著しく不足していました(Oppong ら, 2026, Supportive Care in Cancer)。

前立腺がんについては、20研究1,393名の統合が特徴的な結果を出しています。

アウトカム結果
生活の質0.20(0.07〜0.34、p = .003)=有意に改善
倦怠感0.07(−0.13〜0.26、p = .51)=有意でない
400m歩行テスト対照群のほうが良好(p < .05)
6m歩行テスト、Timed Up and Go有意な関連なし

感度分析でも結果は変わりませんでした。運動群が対照群に負けた項目がある——こうした所見は、通常あまり紹介されません(Nader ら, 2024, International Journal of Surgery)。

いま言えること

  • 抗がん剤治療中の7RCT 561名の統合で、有意だったのは下肢筋力(0.33)だけ
  • 倦怠感への効果は統合ごとに割れる(−0.08 / −0.30 / −0.31 / 0.932)。乳がんでは有意、前立腺がんでは有意でない
  • 筋力と除脂肪量については、20論文1,910名の統合で一貫して有意
  • 除脂肪量の群間差0.85 kgの内訳は「増えた0.51」と「減らずに済んだ0.59」
  • 監督の有無が効果を媒介する
  • 101試験の俯瞰でも「対照と比べて負の効果はなかった」
  • バイオマーカーは75〜100%が「変化なし」または「一貫しない」
  • 倦怠感の軽減は、累積2,800回の総反復数で最大効果に達する
  • 報告の質に問題がある。セット間休息は21%、緊張持続時間は0%しか記載されていない
  • 前立腺がんでは400m歩行で対照群のほうが良好だった
  • 卵巣がんについては、基準を満たす試験が見つかっていない

整理すると、こうなります。

確実性が高いのは「筋肉と筋力が保たれる」ことです。治療中は何もしなければ筋肉が減ります。それを止められる、という点は繰り返し確認されています。

倦怠感については、期待しすぎないほうがよいかもしれません。効くという報告も多いのですが、最も厳密に評価した統合では有意になっていません。

一方で、有害だという証拠はありません。101試験を見渡しても、対照群より悪化した項目はほとんどありませんでした。

推奨は「中強度・週3回・監督下」。低強度(1RMの40〜90%で8〜12回)から始め、8〜24週続ける形が、研究で用いられてきたプロトコルです。

研究で用いられてきた実際の中身も、参考になります。101試験の内訳では期間は3〜4か月が最多(48%)、有酸素運動との併用が56%、監督下・対面が57%でした。つまり「一人で自宅で、筋トレだけを、短期間」という形は、証拠の中心にありません。

また、この分野で有意になりにくいアウトカムには共通点があります。抑うつ・不安(7件中2件)、倦怠感(48研究中10研究)、バイオマーカー(75〜100%が変化なし)——いずれも筋肉から遠い指標です。逆に筋量・筋力・身体機能(67〜100%)という、運動が直接働きかける指標では一貫して改善しています。

これは「心理面に効かない」という意味ではなく、短期間の小規模な試験では検出しにくいということでもあります。生活の質は13件中12件で改善しており、この幅の広い指標では一貫性が高いことも付記しておきます。

がん治療中の運動は、始める前に必ず主治医と相談してください。血球数、骨転移の有無、中心静脈カテーテルの有無、リンパ節郭清の範囲によって、避けるべき動作や時期が変わります。

出典

  1. Metcalfe JW, et al. Effects of resistance training on quality of life, fatigue, physical function, and muscular strength during chemotherapy treatment: a systematic review and meta-analysis. Supportive Care in Cancer. 2024. DOI: 10.1007/s00520-024-08766-y
  2. Lange J, et al. Impact of resistance training on fatigue among breast cancer patients undergoing chemotherapy: a systematic review and meta-analysis. Supportive Care in Cancer. 2024. DOI: 10.1007/s00520-024-08925-1
  3. Contreras LB, et al. Effectiveness of Resistance Training on Fatigue in Patients Undergoing Cancer Treatment: A Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. International Journal of Breast Cancer. 2022. DOI: 10.1155/2022/9032534
  4. Hernández-Nahuelcoy P, et al. Effects of resistance training in patients undergoing cancer treatment: A systematic review and dose-response meta-analysis. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2026. DOI: 10.1016/j.bjpt.2026.101595
  5. Gray L, et al. Does resistance training ameliorate cancer-related fatigue in cancer survivors? A systematic review with meta-analysis. Disability and Rehabilitation. 2023. DOI: 10.1080/09638288.2023.2226408
  6. Nader S, et al. Impact of aerobic and resistance training on fatigue, quality of life, and physical activity in prostate cancer patients: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Surgery. 2024. DOI: 10.1097/js9.0000000000000982
  7. McGovern A, et al. Efficacy of resistance training during adjuvant chemotherapy and radiation therapy in cancer care: a systematic review and meta-analysis. Supportive Care in Cancer. 2022. DOI: 10.1007/s00520-021-06708-6
  8. Koeppel M, et al. Muscle Hypertrophy in Cancer Patients and Survivors via Strength Training. A Meta-Analysis and Meta-Regression. Critical Reviews in Oncology/Hematology. 2021. DOI: 10.1016/j.critrevonc.2021.103371
  9. Tan T, et al. Effectiveness of resistance training in preventing sarcopenia among breast cancer patients undergoing chemotherapy: A systematic review and meta-analysis. Worldviews on Evidence-Based Nursing. 2024. DOI: 10.1111/wvn.12756
  10. Kang DW, et al. Resistance Exercise and Skeletal Muscle–Related Outcomes in Patients with Cancer: A Systematic Review. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2024. DOI: 10.1249/mss.0000000000003452
  11. Zhang Q, et al. Effect of resistance exercise on physical fitness, quality of life, and fatigue in patients with cancer: a systematic review. Frontiers in Oncology. 2024. DOI: 10.3389/fonc.2024.1393902
  12. Oppong I, et al. The effects of aerobic and resistance training across eight cancer types: a systematic review. Supportive Care in Cancer. 2026. DOI: 10.1007/s00520-026-10363-0

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。がん治療中の運動は、必ず主治医および担当の理学療法士・運動指導者と相談のうえで行ってください。血小板減少や好中球減少がある時期、骨転移がある場合、中心静脈カテーテル留置中、貧血が強い時期には、運動の種類と強度に制限が必要です。リンパ節郭清後の上肢の運動は、リンパ浮腫の管理を含めて専門職の指導のもとで段階的に行ってください。発熱、強い息切れ、胸痛、めまい、通常と異なる痛みがある場合は運動を中止し、医療機関に連絡してください。

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