護身術の訓練が、実際に性暴力の被害を減らすのか。この問いに対して、New England Journal of Medicine に掲載された無作為化比較試験があります。

Senn CY, et al. Efficacy of a sexual assault resistance program for university women. The New England Journal of Medicine. 2015;372(24):2326–2335. DOI: 10.1056/nejmsa1411131

カナダの3大学の1年生女子893名を、EAAA(Enhanced Assess, Acknowledge, Act)プログラム群451名と、性暴力に関するパンフレットを提供する対照群442名に無作為化したものです(NCT01338428)。

アウトカム(1年間)プログラム群対照群相対リスク減少
強姦(既遂)5.2%9.8%46.3%(6.8〜69.1)、p = 0.02
強姦未遂3.4%9.3%63.2%、p < 0.001

参加率は91%(4ユニット中3つ以上に出席)。この規模と設計で、被害の発生そのものを主要評価項目に置いた試験は、この分野では例外的です。

ただし、この結果を読むうえで、最初に確認しておくべきことがあります。性暴力の責任は、加害者にあります。被害を防ぐ技術があることと、被害に遭った人に責任があることは、まったく別のことです。この点は、研究者たち自身が繰り返し強調しています。

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プログラムの中身

EAAA は3時間×4ユニット、計12時間のプログラムです。護身の「技」だけを教えるものではありません。

ユニット内容
1〜3知人による性暴力のリスクが高まった状況を「危険」と評価するまでの時間を短縮する/行動に移すことへの感情的な障壁を減らす/最も効果的な言語的・身体的な護身の方法の使用を増やす
4より強い肯定的な性のあり方——そこから男性の親密な相手による性的強要に、より成功裏に抵抗できる

設計論文は、対象を明確にしています——「6人に1人以上の女性が生涯のうちに性暴力の被害に遭い、その大半は知っている男性による。大学キャンパスの状況はさらに驚くべきもので、女子学生の4人に1人までが強姦または強姦未遂の被害者である」(Senn ら, 2013, BMC Women’s Health)。

知人による加害が中心である点が、プログラムの設計を規定しています。見知らぬ人からの襲撃を想定した護身術とは、前提が違います。

2年間の追跡

同じ試験の2年追跡では、効果の持続が確認されています。

アウトカム2年時点
既遂・未遂の強姦、強要未遂、同意のない性的接触30〜64%の減少
個人的リスクの認識、護身の自己効力感、効果的な抵抗方略の知識有意に増加(24か月を通じて)
一般的なレイプ神話の受容、女性への責任帰属減少(24か月を通じて)
リスクの検知事後評価で有意に改善

著者らは「大学は、このプログラムを実施することにより、若い女性がキャンパスでの性暴力の結果として経験する害と、健康上の負の帰結を減らすことができる」と結論しています(Senn ら, 2017, Psychology of Women Quarterly)。

そして、被害歴のある女性についても分析されています。851名のデータを用いた解析では、被害歴にかかわらず、参加者は程度の差はあれ便益を得ていました(相対リスク減少 28〜85%)。

さらに重要な所見があります。

「プログラム参加後に強姦被害に遭った女性は、対照群の女性より、有意に自分を責めなかった。」

この効果は、強姦被害の経験がある女性と、被害歴のない女性の双方で認められました(Senn ら, 2021, Women & Therapy)。

被害を防げなかった場合でも、自責を減らす。これは、プログラムが「防げなかったあなたが悪い」というメッセージにならないように設計されていることの証拠でもあります。

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研究の枠外でも機能するか

Senn CY, et al. Testing the effectiveness of a sexual assault resistance programme in ‘real-world’ implementation. European Journal of Psychotraumatology. 2023. DOI: 10.1080/20008066.2023.2290859

2017〜2021年、カナダの5大学が実際に運用した状況での評価です。無作為化比較試験より対象が広く、人種・性的アイデンティティが多様で、被害経験者の割合が高い集団でした。

アウトカム結果
既遂の強姦(6か月)57.3%減少
強姦未遂32.9%減少(無作為化試験より低い)
いずれかの強姦事前に定めた基準(37.5%)を超える減少

強姦未遂の減少が試験より小さかった理由として、著者らは対象の年齢が高かったこと(平均22歳対18歳)を挙げています。

オンライン化も試みられています。対面での実施コストと指導者養成の複雑さが普及の障壁になっているためです。2人1組が同じ場所に集まり、指導者がビデオ会議で最大8組に同時進行するという混合方式のパイロット試験(65名)では、募集率90%、維持率84%、楽しさの平均8.2/10、推薦意向8.5/10という結果でした(Peitzmeier ら, 2026, BMC Women’s Health、NCT04797741)。

大学以外では

成人の地域住民を対象とした研究もあります。18〜77歳を対象に、9時間の地域ベースのエンパワメント護身術を受けた人と、受けなかった人を比較したものです。

1年後の追跡で、受講者は性暴力被害が有意に少なく、護身の自己効力感が高く、性暴力と抵抗の可能性についてより正確な知識を持ち、自己沈黙が少ないという結果でした。著者らは「教育的文脈の外にある成人集団において、エンパワメント護身術の訓練が被害の予防に有効でありうるという、初めての系統的な証拠」としています(Hollander & Cunningham, 2020, Psychology of Women Quarterly)。

10週間の大学ベースのフェミニスト護身術クラスを1年間追跡した混合研究法の研究でも、受講した女性は性暴力被害に遭う可能性が低く、抵抗する能力への自信が高いと報告されています(Hollander, 2014, Violence Against Women)。

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ところが、場所を変えると結果が変わる

ここからが重要です。同じ考え方のプログラムが、別の文脈では効果を示していません。

研究場所・規模主要アウトカムの結果
Decker ら, 2018マラウイ、141校過去1年の性暴力被害が減少(RR 0.68、0.56〜0.82)
Baiocchi ら, 2017ケニア・ナイロビ、28校5,686名性暴力リスクが3.7%減少(p = 0.03)。ベースライン7.3%
Sarnquist ら, 2023ケニア・ナイロビ、3,263名、24か月追跡OR 1.21(0.40〜5.21)p = 0.63。有意差なし
Hartmann ら, 2025南アフリカ、15校1,540名adjRR 1.24(0.96〜1.69)p = 0.08。有意差なし

南アフリカの試験では、ベースラインで35%の少女が過去1年の性暴力被害を報告し、追跡時も33%でした。群間で有意に違ったのは護身術の知識のみ(係数 0.42、0.16〜0.68、p = 0.007)です。

著者らは、実施上の障壁を挙げています——COVID後の学校で割り当てられる時間の制限、学校全体としての合意の欠如。一方、学校関係者は「学校の認識の向上、暴力を開示する意欲、いじめの減少」を効果として語りました(Hartmann ら, 2025, BMC Women’s Health、NCT05295342)。

ナイロビの24か月追跡でも、社会的・情緒的・学業的な自己効力感のいずれにも有意差がありませんでした。著者らは「この研究は、この設定における先行の研究を、個人の縦断追跡と独立したデータ収集によって改善した」としたうえで、「この集団における性暴力の発生率は高く、この設定での予防介入を実施し厳密に検証する切実な必要性を裏づける」と述べています(Sarnquist ら, 2023, Prevention Science)。

より厳密に測ると、効果が消えたという読み方もできます。

米国の初期の研究

EAAA 以前にも、護身術を含むプログラムの評価は行われていました。

大学生女性500名を対象とした研究では、プログラム群は6か月の追跡期間を通じて防護的行動が有意に増加した一方、性暴力被害率、断定的コミュニケーション、自己効力感には群間差がありませんでした。ただしプログラム後に被害に遭った女性は、対照群と比べて自責が少なく、加害者への責任帰属が大きいという結果でした(Gidycz ら, 2006, Psychology of Women Quarterly)。

プロトコルを改訂し、プラセボ対照群を用いた300名の研究では、自己防護的行動、抵抗の自己効力感、断定的な性的コミュニケーションが4か月にわたって増加し、2か月の追跡で強姦の発生率の減少も示唆されました(Orchowski ら, 2008, Psychology of Women Quarterly)。

アメリカ先住民の少女を対象とした6セッション(12時間)のプログラムでは、性暴力への抵抗の効力感と効果的な抵抗方略の知識が有意に増加し、傾向スコア分析で性暴力被害と性的ハラスメントの種類が有意に少なかった一方、身体的なデート暴力には効果がありませんでした(Edwards ら, 2021, Journal of Interpersonal Violence)。

この分野をめぐる論争

護身術の研究には、特有の論争があります。「女性に自衛を求めることは、被害者非難につながるのではないか」という懸念です。

この点について、2022年の論評は強い主張をしています。

「言語的および/または身体的な抵抗(すなわち護身の方略)が、ほとんどの性暴力の状況において、ほとんどの女性がほとんどの加害者を止めることを可能にすること、そして護身術の訓練が、制限的でも被害者非難的でもなく、むしろエンパワリングな形で暴力を防ぐことは、性暴力予防の文献からしばしば省かれている。」

「護身術に関する実証的研究は、ときに素朴に——護身術が何であるかの誤解によって——無視され、ときに意図的に——それとのイデオロギー的な対立によって——無視される。」(Cermele ら, 2022, Sex Roles)

この分野を概観した論文も、「エンパワメントに基づく女性の護身術訓練は、被害率の実質的に有意な減少を生み出した、これまでのところ唯一のアプローチである」と述べています(Hollander, 2018, Sociology Compass)。

2011〜2023年の19論文を統合したレビューでも、「強い証拠が、護身術訓練の参加者が対照と比べて強姦未遂、既遂の強姦、同意のない性的接触の発生を少なく報告し、PTSD症状も少ないことを示した」とされています。ただし「暴力のリスクがあるより多様な集団において、また効果的な介入の鍵となる特性——最適な内容と量——を特定するために、さらなる研究が必要」という留保がつきます(Johnson ら, 2024, Journal of the American Psychiatric Nurses Association)。

実施上の障壁を検討した論文は、護身術訓練を「傍観者介入プログラム」「男性向けプログラム」と組み合わせ、相乗効果を目指すべきと提言しています(Gidycz & Dardis, 2014, Trauma, Violence, & Abuse)。

いま言えること

  • カナダの3大学893名の無作為化比較試験で、1年間の既遂強姦が 5.2% 対 9.8%、相対リスク減少46.3%
  • 強姦未遂は 3.4% 対 9.3%、相対リスク減少63.2%
  • 2年追跡でも30〜64%の減少が持続
  • 実際の大学運用でも、既遂強姦が57.3%減少
  • 被害歴にかかわらず便益があり、被害に遭った場合も自責が有意に少なかった
  • 成人の地域住民(18〜77歳)でも、1年後の被害が有意に少なかった
  • 一方、南アフリカ(p = 0.08)とナイロビの24か月追跡(p = 0.63)では、有意差が出なかった
  • マラウイ(RR 0.68)とナイロビの初期試験(3.7%減少)では有意だった
  • 米国の初期研究では、防護的行動は増えたが被害率に群間差がなかったものもある
  • プログラムは「技」だけでなく、リスク評価の速度、行動への感情的障壁、性のあり方を扱う12時間の構成
  • この分野の研究は、性暴力予防の文献から省かれがちだと指摘されている

大学生を対象とした研究では、明確な効果が示されています。これは性暴力の予防で、被害率そのものを減らすことが示された数少ないアプローチです。

ただし文脈が変わると、効果が確認できていません。より厳密に測った試験ほど、効果が小さくなる傾向もあります。

効いているのは「技」ではなく、構成全体のようです。危険を早く認識すること、行動をためらわないこと、そして知識。

そして被害を防げなかった場合でも、自責が減っています。ここが、この種のプログラムを評価するうえで決定的です。

最後に、繰り返します。性暴力の責任は、加害した側にあります。被害を防ぐ技術を学ぶかどうかは、被害に遭った人の責任を少しも変えません。

そのうえで——護身術は、選択肢として現実に機能します。研究者たちが求めているのは、これを傍観者介入や加害予防のプログラムと組み合わせることです。どれか一つではなく、すべてを。

出典

  1. Senn CY, et al. Efficacy of a sexual assault resistance program for university women. The New England Journal of Medicine. 2015. DOI: 10.1056/nejmsa1411131
  2. Senn CY, et al. Efficacy of a Sexual Assault Resistance Program for University Women. The New England Journal of Medicine. 2015. DOI: 10.1056/nejmc1509345
  3. Senn CY, et al. Sexual assault resistance education for university women: study protocol for a randomized controlled trial (SARE trial). BMC Women’s Health. 2013. DOI: 10.1186/1472-6874-13-25
  4. Senn CY, et al. Secondary and 2-Year Outcomes of a Sexual Assault Resistance Program for University Women. Psychology of Women Quarterly. 2017. DOI: 10.1177/0361684317711408
  5. Senn CY, et al. Sexual Assault Resistance Education’s Benefits for Survivors of Attempted and Completed Rape. Women & Therapy. 2021. DOI: 10.1080/02703149.2021.1971425
  6. Senn CY, et al. Testing the effectiveness of a sexual assault resistance programme in ‘real-world’ implementation. European Journal of Psychotraumatology. 2023. DOI: 10.1080/20008066.2023.2290859
  7. Peitzmeier SM, et al. The IDEA3 pilot trial: feasibility, acceptability, and preliminary efficacy of an online adaptation of an evidence-based intervention for campus sexual assault prevention. BMC Women’s Health. 2026. DOI: 10.1186/s12905-026-04551-7
  8. Hollander JA. Does Self-Defense Training Prevent Sexual Violence Against Women? Violence Against Women. 2014. DOI: 10.1177/1077801214526046
  9. Hollander JA, Cunningham J. Empowerment Self-Defense Training in a Community Population. Psychology of Women Quarterly. 2020. DOI: 10.1177/0361684319897937
  10. Hollander JA. Women’s self-defense and sexual assault resistance: The state of the field. Sociology Compass. 2018. DOI: 10.1111/soc4.12597
  11. Decker MR, et al. Sexual violence among adolescent girls and young women in Malawi: a cluster-randomized controlled implementation trial of empowerment self-defense training. BMC Public Health. 2018. DOI: 10.1186/s12889-018-6220-0
  12. Baiocchi M, et al. A Behavior-Based Intervention That Prevents Sexual Assault: the Results of a Matched-Pairs, Cluster-Randomized Study in Nairobi, Kenya. Prevention Science. 2017. DOI: 10.1007/s11121-016-0701-0
  13. Sarnquist C, et al. Sexual Assault Among Young Adolescents in Informal Settlements in Nairobi, Kenya: Findings from the IMPower and SOS Cluster-Randomized Controlled Trial. Prevention Science. 2023. DOI: 10.1007/s11121-023-01595-1
  14. Hartmann M, et al. Effectiveness of an empowerment-based self-defense program among South African girls: results from a cluster-randomized control trial in schools. BMC Women’s Health. 2025. DOI: 10.1186/s12905-025-03647-w
  15. Edwards KM, et al. Effectiveness of a Sexual Assault Self-defense Program for American Indian Girls. Journal of Interpersonal Violence. 2021. DOI: 10.1177/0886260521997942
  16. Gidycz CA, et al. The Evaluation of a Sexual Assault Self-Defense and Risk-Reduction Program for College Women: A Prospective Study. Psychology of Women Quarterly. 2006. DOI: 10.1111/j.1471-6402.2006.00280.x
  17. Orchowski LM, et al. Evaluation of a Sexual Assault Risk Reduction and Self-Defense Program: A Prospective Analysis of a Revised Protocol. Psychology of Women Quarterly. 2008. DOI: 10.1111/j.1471-6402.2008.00425.x
  18. Gidycz CA, Dardis CM. Feminist Self-Defense and Resistance Training for College Students. Trauma, Violence, & Abuse. 2014. DOI: 10.1177/1524838014521026
  19. Cermele J, et al. Self-Defense as an Effective and Neglected Form of Sexual Assault Prevention: A Commentary and Overdue Correction to the Literature. Sex Roles. 2022. DOI: 10.1007/s11199-022-01284-3
  20. Johnson AM, et al. Self-Defense Training to Reduce Violence Against Women and Girls: An Integrative Review. Journal of the American Psychiatric Nurses Association. 2024. DOI: 10.1177/10783903241254308

この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。性暴力の責任は、常に加害者にあります。被害を防げなかったことについて、被害に遭った方に責任はありません。被害に遭われた方、ご相談したい方は、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通短縮番号 #8891)、警察(#8103「ハートさん」)、内閣府のSNS相談「Cure Time」などの窓口があります。急性期の医療・証拠保全・法的支援を無料で受けられる場合があります。ひとりで抱えずご相談ください。

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