ピラティスの安全性について、多くの論文が同じ一文を書いています——「有害事象の報告はなかった」。
しかし、変形性膝関節症を対象とした2025年の統合解析は、その一文に注釈をつけました。
「有害事象は報告されなかったが、能動的な監視は限られていた。」
「有害事象の報告が不十分であるため、安全性は不明のままである。」(Zhang ら, 2025, Annals of Medicine)
「報告がない」ことと「起きていない」ことは違います。この記事は、その差がどれくらいあるのかを整理します。

そもそも、記録されているのか
運動療法の試験で有害事象がどう扱われているかを調べた研究があります。
Chowdhry S, et al. Reporting of Harm in Randomized Controlled Trials of Therapeutic Exercise for Knee Osteoarthritis: A Systematic Review. Physical Therapy. 2021. DOI: 10.1093/ptj/pzab161
25か国の113研究(152群)、5,909名が運動を行った試験を対象としています。
| 項目 | 該当する研究 |
|---|---|
| 有害事象についての記載がある | 50研究(44.2%) |
| 実際に有害事象を報告している | 24研究(21.2%) |
| 脱落についての記載がある | 103研究(91.2%) |
| 運動強度が特定されていない | 57.9% |
さらに重要な発見があります。脱落の理由を精査すると、16研究(15.5%)で39名の脱落理由が有害事象に分類できるものでした。これを加えると、有害事象は13.1%増加します。
結果として、有害事象と脱落の両方を明記していた研究群では、336名(6.0%)が運動に関連する害を経験していました。
そしてCONSORT声明(2010年)の前後で、脱落の誤分類が 12.2% から 3.1% へ有意に減少しています。報告の作法が変わると、見える数字が変わるということです。
高齢者の漸進的レジスタンストレーニングでも、同じ構図が確認されています。121試験のうち、53試験は有害事象について何も述べておらず、25試験は「起きなかった」と報告し、43試験が何らかの有害事象を報告しました。報告された有害事象の大半は、筋の張りや関節の痛みといった筋骨格系の問題です。
そして有害事象は、特定の健康状態・機能制限・座りがちな生活習慣のある参加者を対象とした試験、高強度を用いた試験、そして2001年のCONSORT声明以降に発表された試験で、より多く報告されていました(Liu ら, 2010, Archives of Physical Medicine and Rehabilitation)。
最後の点は示唆的です。実際に増えたのではなく、報告されるようになったという可能性が高いからです。
運動療法全体のリスクはどれくらいか
Niemeijer A, et al. Adverse events of exercise therapy in randomised controlled trials: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2019. DOI: 10.1136/bjsports-2018-100461
180のコクランレビューから773の原著研究を特定し、そのうち有害事象を報告していた378研究(38,368名)と375研究(38,517名)を解析したものです。
| アウトカム | リスク比(95%CI) | I² |
|---|---|---|
| 重篤な有害事象 | RR 0.96(0.90〜1.02) | 0.0% |
| 重篤でない有害事象 | RR 1.19(1.09〜1.30) | 0.0% |
重篤な有害事象は増えません。しかし重篤でない有害事象は19%増え、有害な結果を1件増やすのに必要な人数(NNH)は6です。
6人に1人——これが、運動を始めたときに軽度の不調(筋肉痛、関節の違和感など)を経験する人のおおよその割合になります。
この数字を「危険」と読むべきではありません。著者らも「運動療法は、比較的安全な介入として推奨されうる」と結論しています。ただし「何も起きない」わけではないことは知っておく価値があります。

ピラティスの試験では、どう報告されているか
ピラティスに絞って見ると、報告は一貫して「なし」です。
| 総説・統合解析 | 対象 | 安全性についての記述 |
|---|---|---|
| Kamioka ら, 2016 | 9つの系統的レビュー | 「いずれの研究にも有害事象の記述はなかった」 |
| Denham-Jones ら, 2021 | 7研究397名(50歳以上) | 「有意な有害作用の報告はなかった」 |
| Zhang ら, 2025 | 8試験322名(変形性膝関節症) | 「有害事象の報告はなかったが、能動的監視は限られていた」 |
| Banks ら, 2024 | パーキンソン病15名 | 「観察された唯一の有害事象は、軽度の筋肉痛だった」。遵守率100% |
9つの系統的レビューを評価した研究は、「いかなる系統的レビューも、ピラティスによる有害作用や害を報告していなかった」としています(Kamioka ら, 2016, Complementary Therapies in Medicine)。
23研究を検討した総説も、19論文がピラティスを対照群より有効と報告したうえで、CONSORT および PEDro 尺度での質評価を行っています(Byrnes ら, 2017, Journal of Bodywork and Movement Therapies)。
1,566件から36論文を選定した腰痛の総説も、リハビリテーションへの含意として「ピラティスは、腰痛のある大半の人に適用できる安全な手段である」と述べています(Patti ら, 2023, Disability and Rehabilitation)。ただしこの記述も、有害事象の能動的な監視に基づくものではありません。
唯一、有害事象を明示的に比較した試験があります。座りがちな若年女性32名を、ストレッチを含む従来型ピラティスと筋力強化のみの非従来型ピラティスに無作為化し、週3回・8週間行ったものです。
| 群 | 結果 |
|---|---|
| 従来型(ストレッチあり) | 座位体前屈が有意に優れる(d = 0.87、p = 0.035) |
| 非従来型(ストレッチなし) | 痛みや不快感を経験するオッズが高い(OR 4.20、95%CI 0.69〜25.26) |
| 筋力・垂直跳び・筋持久力 | 群間差なし |
オッズ比 4.20 は大きな数字ですが、信頼区間は 0.69 から 25.26 と極端に広く、有意ではありません。1群16名ではこの程度の精度しか出ません(Reis ら, 2024, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation、NCT05538520)。
介入の質は、どう評価されているか
Geraci I, et al. Therapeutic quality of exercise interventions for chronic low back pain: a meta-research study using i-CONTENT tool. BMJ Evidence-Based Medicine. 2025. DOI: 10.1136/bmjebm-2024-113235
慢性腰痛のコクランレビューから100の運動群を無作為に抽出し、運動療法の質を評価する国際的な基準(i-CONTENT)で採点したものです。
| 評価項目 | 「低リスク」と評価された割合 |
|---|---|
| 患者の選択 | 100% |
| 運動の種類 | 92% |
| アウトカムの種類とタイミング | 89% |
| 有資格の監督者 | 84% |
| プログラムの安全性 | 58%(「おそらく低リスク」) |
| 運動の遵守 | 44% |
| 運動の用量 | 34% |
安全性、遵守、用量の3つが、突出して評価が低くなっています。
ただし、この解析にはピラティスにとって良い知らせも含まれています——「すべての運動の種類のなかで、ピラティスがすべての領域で最良のスコアだった。」(対象となったピラティスの群は7件です)
一方、ピラティスの介入内容の記述については、厳しい評価があります。中〜高品質の10の無作為化比較試験を3つの報告基準で採点した研究では、CONTENT尺度で9点満点中5.3点、CERTチェックリストで19点満点中9.5点という結果でした。
著者らの結論は「腰痛管理のための中〜高品質の無作為化比較試験10件における、ピラティス運動プログラムの報告は不完全なままである」というものです(Barros ら, 2020, Disability and Rehabilitation)。何をやったのかが十分に書かれていなければ、安全性の評価も再現もできません。

実際の現場では、何が起きているか
試験ではなく、日常のジムでの傷害を調べた研究があります。
Kemler E, et al. Characteristics of Fitness-Related Injuries in The Netherlands: A Descriptive Epidemiological Study. Sports. 2022. DOI: 10.3390/sports10120187
過去12か月にフィットネス関連の傷害を負った18歳以上のオランダ人494名(平均38.9歳、59%が男性)を対象とした調査です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 傷害が多かった活動 | 筋力トレーニング、個人での有酸素運動、ヨガ/ピラティス、グループレッスンでの有酸素運動、クロスフィット |
| 受傷部位 | 肩、脚、膝 |
| 監督なしの活動中に発生 | 73.1% |
| 原因 | 使いすぎ・過負荷(119件)、踏み外しや捻挫(48件)、不適切な姿勢や動き(43件) |
ヨガ/ピラティスは、傷害が多かった活動の上位に入っています。臨床試験では「有害事象なし」なのに、実際のジムでは傷害が起きている。この差は何でしょうか。
手がかりは「73.1%が監督なしの活動中に発生」という数字にあります。臨床試験のピラティスは、ほぼ例外なく有資格の指導者の監督下で行われます。
比較の基準として、ヨガの疫学研究を見ておきます。9つの観察研究(ヨガ実践者9,129名、非実践者9,903名)の統合では、クラス中の有害事象の発生割合が22.7%、12か月有病率が4.6%、生涯有病率が21.3〜61.8%、重篤な有害事象が1.9%でした。最も多いのは筋骨格系で、捻挫と挫傷です(Cramer ら, 2018, Journal of Science and Medicine in Sport)。
非実践者と比べると、転倒のリスク(OR 0.90)と転倒関連の傷害(OR 1.04)は同程度でしたが、半月板損傷のリスクは高い(OR 1.72、1.23〜2.41)という結果でした。
ピラティスについて、これに相当する疫学研究は見当たりません。
むしろ傷害を減らす側面
安全性の議論には、もうひとつの面があります。ピラティスは転倒を減らす可能性があります。
39研究を対象とした統合解析では、バランス(ES 0.36)、筋力(0.63)、柔軟性(0.41)、機能性(0.51)に中程度の効果、転倒リスクには大きな効果(ES 0.90、0.41〜1.38)が示されています。確実性はバランス・柔軟性・機能性で「低い」、筋力と転倒で「中程度」です(Fernández-Rodríguez ら, 2021, Physiotherapy)。
65歳以上の転倒リスクのある55名を対象に、週1回・10週間のリフォーマーピラティスを行った試験では、Timed Up and Go、Berg バランススケール、10m歩行、下肢の関節可動域が有意に改善しました(Roller ら, 2017, Journal of Bodywork and Movement Therapies)。
ただし、転倒そのものを減らせるかはまだ示されていません。60歳以上53名を対象としたパイロット試験では、24週時点の転倒による傷害の発生率が42%低く、傷害を伴う転倒の発生率が64%低いという結果でしたが、いずれも統計的に有意ではありません(p = 0.347、p = 0.136)。
著者らは、決定的な試験に必要な規模を推定しています——804名(Barker ら, 2016, Clinical Rehabilitation)。
なお、遠隔配信の安全性については、22試験を対象とした統合があります。軽度・中等度の有害事象(IRR 1.00)にも重大な有害事象(IRR 1.77、0.55〜5.70)にも、対面との差はありませんでした。発生率は遠隔で410セッションに1件、対面で414セッションに1件です。ただし適格だった28試験が「有害事象を報告していない」という理由で除外されています(Brown ら, 2025, Clinical Rehabilitation)。
いま言えること
- ピラティスの系統的レビューは、一貫して「有害事象の報告なし」としている
- ただし変形性膝関節症の統合は「能動的監視が限られており、安全性は不明」と明記
- 運動療法全般では、重篤な有害事象は増えない(RR 0.96)が、重篤でない有害事象は19%増える。NNH は 6
- 膝の運動療法113研究のうち、有害事象について記載があるのは44.2%、実際に報告しているのは21.2%
- 脱落理由を精査すると有害事象が13.1%増える。全体では6.0%が運動関連の害を経験
- i-CONTENT 評価で、安全性が「低リスク」とされたのは58%、用量は34%、遵守は44%
- ただしピラティスは、全運動種別のなかで全領域で最良のスコアだった
- ピラティスの介入内容の報告は不完全(CERT で19点中9.5点)
- 実際のジムの調査では、ヨガ/ピラティスが傷害の多い活動の上位。73.1%が監督なしで発生
- ヨガでは重篤な有害事象が1.9%、半月板損傷のリスクが高い(OR 1.72)。ピラティスに相当する疫学研究はない
- 一方、転倒リスクには大きな効果(ES 0.90)。ただし転倒そのものを減らせるかは未証明で、804名の試験が必要
ピラティスは、おそらく安全です。複数の総説で有害事象の報告がなく、i-CONTENT 評価でも最良でした。
ただし「報告がない」ことを根拠にするのは危うい。そもそも記録されていない可能性が高いからです。
運動を始めれば、6人に1人は軽度の不調を経験します。これは異常ではありません。
そして実際の傷害の73%は、監督のない状況で起きています。
実務的な結論は、単純です。指導者のいる環境で始めること。臨床試験で「有害事象なし」とされているピラティスは、ほぼすべて有資格の指導者の監督下で行われたものです。動画や自己流で同じ安全性が得られる根拠はありません。
そして不調があれば報告してください。研究の場でさえ十分に記録されていないのですから、スタジオではなおさら、本人が伝えなければ誰も気づきません。
出典
- Zhang K, et al. The efficacy and safety of pilates exercise in patients with knee osteoarthritis: a systematic review with meta-analysis of randomized controlled trials. Annals of Medicine. 2025. DOI: 10.1080/07853890.2025.2540616
- Chowdhry S, et al. Reporting of Harm in Randomized Controlled Trials of Therapeutic Exercise for Knee Osteoarthritis: A Systematic Review. Physical Therapy. 2021. DOI: 10.1093/ptj/pzab161
- Liu CJ, Latham N. Adverse events reported in progressive resistance strength training trials in older adults: 2 sides of a coin. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2010. DOI: 10.1016/j.apmr.2010.06.001
- Niemeijer A, et al. Adverse events of exercise therapy in randomised controlled trials: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2019. DOI: 10.1136/bjsports-2018-100461
- Kamioka H, et al. Effectiveness of Pilates exercise: A quality evaluation and summary of systematic reviews based on randomized controlled trials. Complementary Therapies in Medicine. 2016. DOI: 10.1016/j.ctim.2015.12.018
- Denham-Jones L, et al. A systematic review of the effectiveness of Pilates on pain, disability, physical function, and quality of life in older adults with chronic musculoskeletal conditions. Musculoskeletal Care. 2021. DOI: 10.1002/msc.1563
- Banks H, et al. Short-term effects of Pilates-based exercise on upper limb strength and function in people with Parkinson’s disease. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2024. DOI: 10.1016/j.jbmt.2024.02.032
- Byrnes K, et al. Is Pilates an effective rehabilitation tool? A systematic review. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2017. DOI: 10.1016/j.jbmt.2017.04.008
- Reis AL, et al. Effects of stretching in a pilates program on musculoskeletal fitness: a randomized clinical trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. 2024. DOI: 10.1186/s13102-024-00808-6
- Geraci I, et al. Therapeutic quality of exercise interventions for chronic low back pain: a meta-research study using i-CONTENT tool. BMJ Evidence-Based Medicine. 2025. DOI: 10.1136/bmjebm-2024-113235
- Barros B, et al. The management of lower back pain using pilates method: assessment of content exercise reporting in RCTs. Disability and Rehabilitation. 2020. DOI: 10.1080/09638288.2020.1836269
- Kemler E, et al. Characteristics of Fitness-Related Injuries in The Netherlands: A Descriptive Epidemiological Study. Sports. 2022. DOI: 10.3390/sports10120187
- Cramer H, et al. Injuries and other adverse events associated with yoga practice: A systematic review of epidemiological studies. Journal of Science and Medicine in Sport. 2018. DOI: 10.1016/j.jsams.2017.08.026
- Fernández-Rodríguez R, et al. Pilates improves physical performance and decreases risk of falls in older adults: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy. 2021. DOI: 10.1016/j.physio.2021.05.008
- Roller M, et al. Pilates Reformer exercises for fall risk reduction in older adults: A randomized controlled trial. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2017. DOI: 10.1016/j.jbmt.2017.09.004
- Barker AL, et al. Feasibility of Pilates exercise to decrease falls risk: a pilot randomized controlled trial in community-dwelling older people. Clinical Rehabilitation. 2016. DOI: 10.1177/0269215515606197
- Brown RCC, et al. Safety of videoconferencing for physical rehabilitation and exercise: A systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2025. DOI: 10.1177/02692155251361916
- Patti A, et al. Effectiveness of Pilates exercise on low back pain: a systematic review with meta-analysis. Disability and Rehabilitation. 2023. DOI: 10.1080/09638288.2023.2251404
この記事は公表された研究の要約であり、診断や治療の助言ではありません。持病のある方、妊娠中の方、骨粗鬆症・脊椎の疾患・関節の手術歴がある方は、開始前に主治医に相談してください。運動中に強い痛み、しびれ、めまい、息切れが出た場合は直ちに中止してください。不調があれば必ず指導者に伝えてください。研究の場でさえ有害事象は十分に記録されていないことが示されており、自己申告が安全確保の要になります。






